「あいつを『真っ暗』から出したときな、神様嬢ちゃんに会ったんだよ」


人の入りそうにない山奥にある天然露天風呂に、一人の老人が肩まで遣っていた。

長い白髪を頭の後ろで縛っており、盛り上がった筋肉は、とても老人とは思えない。

その老人がため息をつきながら、濃い湯気の向こうにいる誰かに向かって話しかける。


「神様から直々に『助けて』と云われ、そりゃ断るわけにもいかんだろう。」

それで、その子はどうしたのですか?

「神様からの注文通りの結界をこさえて、いや神様の結界に多少手を加えて、あいつをぶち込んだ。」

ずいぶんと乱暴ですね…。

「そのくらいでないと、わしでも抑えられなんだ。」


老人が思い出したようにいう。

体付きだけではないのは、老人の風格から見得ることだ。

しかし、それでも手を焼いたと云うのだ。


「後は神様嬢ちゃんが中の世界を整えて、ワシの写を置いておわりじゃ。その先は預り知らんのでな。」

その、神様と云うのは、なんの神なのですか?人の写ならともかく、貴方程の人を写せるのは、相違ないと思うのですけど。

「まぁ、全てだ。」

全て、ですか?


相手の女性は、老人に聞き返す。普段の彼女の知る老人にしては、余りにも不具合で不安定な回答であるからだ。


「そうとしか考えられんのだ。あの『真っ暗』であって、神様嬢ちゃんが現れるとなると、ワシの頭ではそれしか思いつかん。」

とならと、私の頭でも解る訳がないですね。

「ぬかせ」


笑みをあらわす老人が、少し謙遜しているようにも伺えるが、その言葉は当人と相手の知識量を冷静に比べたまでのこと。

しかしどの分野からしても、一般人とこの二人を比べると、雲泥ではあることに違いはない。


「まぁさしずめあの世界は、あいつにとっての籠か、それとも牢屋か。そのどちらかではないかと思えてならん。」

まるでずっと見ていたかの様ないい口ですね。写しはしたけど、あなたではないのでしょう?』


「残念ながら、アレもワシであることに変わりはない。だからこそ、見得るのじゃ。」

相変わらず規格外ですこと。


あきれたように云う女性の言葉も、いつもの事だと解っての言である。


けどなぜそのような表現を?

「あの世界の中は、終わりがないんじゃ。」

時間が廻っている、という事なのですか?

「そうだ。外より時間の流れを急にし、決まってある時間を繰り返す。そういう風にしてくれとの注文じゃった。」

あなたがそうしたのですか。けどそれはあなたの孫にとっても、あなたにとっても

「酷、であろうな。」


解っていたし、見当も十二分についていた。

老人は言葉にはしないが、相手の女性には伝わっていた。


「そうでもしなければ、あいつの中の大喰らいが死なんのだ。」

殺せるのですか?いや、『真っ暗』を殺してもいいのですか?

「正直なんとも云えん。だが殺すのはあいつでなければいかん。でなければ、たまたま『真っ暗』に生じたあいつが、また消えてしまう。しかしな、あれが生じてからよりもさらに長い永い時間がかかるというのに、あの神様嬢ちゃんは待つと云った。」

何れはそうなると解ってて、という事でもなさそうですね。

「確証などないだろうよ。いくらあの嬢ちゃんが神であってもの。」


いつかは、いつかはと、神様は祈り続けて、信じ続けている。

誰に対してであろうか。自分に対してなのだろうか。


「…一つだけ、あやつらの『物語』を終わらせる方法がある。解るか?」


老人にそう問われると、女性の声は如何にも応えづらそうに『えぇ、まぁ…。』とつぶやく。


けどそれこそ、彼にとっては、いや、彼女にとって、最も酷なのではないでしょうか?

「そうさな…。」


続けられなければ、彼女が『諦め』ればいい。

シンプルだからこそ、答えは非情に簡単なものなのだ。


「まぁ結局のところ、あいつ次第なんじゃよな。」


老人はそう云うと、にしてもいい湯だと零す。

あと自分にすることは無いと分かっているのもあるが、それこそあいつならどうにかなるだろうと、どうにかしてやるだろうと、なんとなく解るのだろう。



















きっと目を開けても、暗い。足がついてるのかも解らないほど、暗いだろう。


そんな世界で見えたのは、僕とシロと小さな子で、なんとなく覚えている。そういえば、そんなこともあったなぁ。なんて思うほどの余裕は、不思議とあった。


『もう、思い出せたか?』


もうノイズはなかった。はっきりと聞こえる。ゆっくりと目を開けると、やっぱり世界は『真っ暗』で、僕の正面に白い影の形が浮かんでいた。


「うん。おかげさまで。」


『それは何より。』


僕の声と話すのは、なんだか小恥ずかしいものがある。


『説明はいるか?』


「じゃぁ、ひとつだけ」

すると『真っ暗』の彼は腰に手を当てて、『なんだ。云ってみろ』と云う。まるで僕じゃないみたいだ。


「後は任せて」


僕がそういうと、彼は僕の声で笑い出した。

本当に彼は僕なのだろうか。あんな笑い方をする、僕なんて。


『あぁ、あぁ。いいよ。あとは任せた。もう「僕」の出番は終わりで、『真っ暗』はなくなる。』


「無くなりはしないよ。」


あくまで、次が僕になるだけで、また『真っ暗』は続く。


『じゃあ、元気でな、僕。』


「またね、僕。」


彼はそう云って、黒く滲んでいき、消えた。


こうやって次の僕が『真っ暗』になって、また始めからやり直す。また一からやり直しかと、思うものもあった。不思議とあった。


「大丈夫だよ」


その声には聞き覚えがある。聞き覚えがありすぎて、聞こえていないと不安だと思えてしまう程、その声を好んでいる。

そんな声の主は、僕の後ろに立っていた。


「クロは起きたから、もう大丈夫だよ。」


相変わらずのまぶしい笑顔で、シロはそう云った。

さっきの彼と違い、シロはいつもの巫女服姿で、『真っ暗』な背景に溶け込む事はない。

ただ、無理してるのが見え見えだった。今にも泣きそうじゃないか。


「思い出せた?」


「うん。ごめん。」


「ん、何で?」


シロは不思議そうな表情で聞き返す。

僕は相変わらずの無表情で、答える。


「忘れてて。」


「仕方ないよ。そういう風になってたんだから。」


そういう風にするしか無かったのだろう。

なんせ、形がない『真っ暗』が、シロを好きになってしまったのだから、いつかはと信じて何度も繰り返すしか、僕の形には成れなかったもんだから。


映写機が再生し終わって、フィルムを巻き治す。それを何度も繰り返して、いつか磨耗するまで繰り返す。とうとう事切れると、新しいフィルムをやっと入れ直すことができる。


「けど、これで最後かな。」


「なんで?」

「まーねー」と云いながら、シロは後ろ髪を揺らせながら背中を向けた。強がっているのがばればれだって。


ばればれだけど、何を隠してるんだろうか。其れだけは見当がつかない。


「なんかね、ダメみたい。」


今にも泣きそうな声で、シロが気丈に云った。

笑顔の声が震えている。


「また僕がやり直すんじゃないの?」


「ううん。これで最後。」


目を閉じて、シロは首を横に振る。

あぁそうか。本当に、次は無いのか。


「けど、それは、嫌だなぁ。」


終わるのを待っていたシロには、今の僕の言葉は酷く聞こえただろう。

けど僕は、柄にもなく笑いながら、そう云ってみたんだ。


「酷いことをシロにしていたんだ。」


「けど、それは!」


「仕方がないのかもしれない。それでも、事実には変わりないし、それに応えたい。」


シロは全部自分のせいだと、そう思っているんだろう。

発端は、シロが僕を望んだことから始まって、それから延々と奄々と、永い時間がたっている。

にもかかわらず、目の前で『これですべてが終わっちゃう』と思ってそうな顔して泣きじゃぐってるこの子は、あきらめなかったんだ。ずっと僕を待ってくれていた。


僕は『僕』に任せろと云った。

なら、今度こそ叶えるんだ。


「駄目だよ…。もうクロの目が覚めちゃうから、私は消えちゃうよ。神社も、湖も、私の場所もすべて。」


シロが言い切ると、視界に白い光が徐々にあふれてくる。

消えてしまう。このままじゃ消えてしまう。


ちがう。

これは僕もシロも望んじゃいない。


「ちがう!今度こそ一緒に居るんだ!僕は、君と一緒に居るんだ!!」


涙でぐちゃぐちゃになったシロの顔も、光で徐々に見えなくなっていく。

終わるな。僕はまだ諦めていない。


シロが諦めても、僕は諦めていない。


諦めない。


「そうだよ。僕は諦めな」

今まで出したことのない大声の決意を、シロの細く小さい指が、僕の唇に触れて遮った。


「もう。最後までかっこいいんだから。クロは。」





























白い光があふれた。


僕は、「待って」の一言も言えないまま、光の中に墜ちた。





そして夢は、覚めた。























//おかしな人間の少年と、神様の少女の物語//

last










「シロ?」


第一声がそれだった。

目が覚めると、塗り壁と天井の部屋中で、病院の個室のようだった。


体を起こそうとしても、なかなかうまく動かない。どうやらずいぶんと長い時間眠いって居たみたいだった。

僕はどうして病院なんぞに居るのだろう。うーん。思い出せない。


体を起こすだけでも、ずいぶんな時間がかかった。

よっぽど僕はこのベッドに沈んでいたんだろう。寝心地は確かによさそうだけども。足も、まぁ程よく動く。ベットから出ようとして立ち上がると、棒のような僕の足が何とか直立を維持する。

ゆっくりとスリ足で移動して、窓際に立つ。風景は絶景、とも云いがたいけども、自然豊かな山間に居るのだろうか、緑色が5割を占めている。

もう4割は快晴夏の空として、少し遠くに小さな集落が見える。どうやらこの辺には、この病院くらいしか大きな建物がないと思えた。


はて、これは記憶喪失だろうか。僕はまるで現状把握ができないでいらっしゃる。

ベッドの枕元にあるネームプレートを見るに、どうやらあれが僕の名前のようだ。どうにも自分の名だとはしっくりこないんだけど、字面的に「クロ」という単語が合いそうな名前だった。





『じゃぁ、君の名前はクロだね』





背後から女の子の声がした。

なんだ、ほかに人が居るなら早く言ってくれたらと振り向いたけど、そこには備え付けの洗面台と鏡しかなかったもちろん、鏡の向こうには女の子なんてもってのほかで、病院服を見事に着こなす僕が立っているだけだった。

けどなんか、聞き覚えのあるような、なんか、知ってるような。


すると、「コンコン」とノックの音が、入り口のドアから聞こえた。ドアが開いて看護師さんらしき人が、それらしい道具を持って現れた。


「失礼しまーすぅ、毎度おなじ綺麗で可憐な看護師のイケナイお姉さんがぁ、まるでお人形さんのように可愛いくー君の体をあーんなとこからこーんなか・わ・い・い・ところまで隅々診察しにきまし・・・・・・た・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

目を合わせたまま数秒間の沈黙の後、イケナイ看護師さんが手元から道具をガシャンと落とし、口をパクパクとさせながら頭からは『?』を出して、ズズズと後ずさりした。

それでも、イケナイ看護師のお姉さんは深呼吸をして、丈の威容に短いナース服をほこりを取るように払い、コホンと咳を一つすると、


「せんせーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいあれ居ないどこせーーーーーーんせーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!」


と叫びながら猛ダッシュで戻っていった。

ドップラー現象というのは病院内でも起きるということを、僕ははじめて知ったようなきがする。僕が目覚めたことがそこまで大事なのかと思うんだけども、そのナースの形相と行動を見る限り、どうやらそうらしい。


ベットに視線を戻そうとしたら、カーテンの裏の棚に服と靴が上がっていた。近寄って広げてみると、心なしか埃をかぶってはいたけど、どうやら僕の体格にちょうどいい大きさだった。これは僕の服だろうか。そう考えながらも、既に体は服を着終わっていた。

考えるよりも行動だ。あの看護士がまた来るとなると何か面倒くさそうだったから、僕は病室を抜け出すことにした。

少し歩くと、体が慣れてくれたのか、違和感はすぐ取れた。それこそ、これが自分の手足だとはっきりとわかる。どうにか見つからずに病院の外に出た。ザルだな、とかは思ってない。うん。

ただ、ここは誰だ私は何処だ状態に変わりはない。それにやっぱりここは村外れにある場所のようで、右も左もわからない。このままじゃ病院に連れ戻されるなぁ、いやそれがいいのだろうか。実際病院出たところで行き先はあるのかといわれたら、ん?

ふとポケットに入れた手が何かに触れた。


がさがさと音を立てて取り出すと、くしゃくしゃに丸められた紙が出てきた。

広げてみると、まぁ変な文字と図形が並んでらっしゃる。御札、だろうか。

ボクは何処でこんなものを拾ったのだろうか。丸められていたせいか、本当にしわくちゃになってしまっている。

ん、裏に何か書いている。ずいぶんと古そうな字だけども。


 [また 神社で 三人で]


はて、なんのこっちゃだろう。

覚えがない、というのは当然だけども。

けど、僕は誰かと約束したんだろうか。

申し訳ない。そんな約束も忘れてしまっているんだ。と心の中でどこかの誰かに謝罪してみる






『そんなことないよ』。



…また、聞き覚えのある声がした。澄んだ女の子の声。

まぁどうせまた誰も居ないんだろう、と思いながら振り向く。


瞬間。


頭に釘が打ち込まれたような感覚に襲われた。

未だリアルに打ち込まれた方がましかもしれないと思うぐらい、鈍痛が脳の深いところで響いている。実際リアルで打ち込まれたら痛いもんじゃなくて簡単に死ねるとは思うけど、それぐらい、かなり、痛い。

これはちょっと、たってられない。僕の体はそんな重症だったのだろうか。

それにこの体がずずずっと沈んでいく感覚、これシロと始めてあったときのと。


「・・・・・・シロ?」


ちょっと待て僕、シロって、誰、だ、駄目だ、倒れる。

スッと視界が暗転して、僕は倒れたら痛そうな砂利道に、倒れた。





つもりだったんだけど。



「え。」



目を開けると、僕が倒れていたのは落ち葉で作られたフカフカの地面の上だった。

何が起きたんだ。

起き上がろうとして手を地面につくと、くしゃくしゃになった御札がまだ握られていた。

空はまだ高くて、日も少し暑い。

周りを見渡すと、やたらとボロっちぃ神社と、コケの生えた鳥居が目に付いた。


見覚えがあった。

この道もこの鳥居も、あるぼろぼろの神社も。

とてもものすごく、見覚えが、あった。







神社、神様、シロ


シロ、クロ、ちび


シロ








『クロー、こっちー』


あぁ、貧乳神様か。








あぁ、そうか。そうだった。

なんで、何で僕は、忘れていたんだろう。


なんだ、これ。






「例の少年が居なくなった?」


渡り廊下を歩く白衣の中年男性が、先ほどのイタイケな看護師お姉さんに問う。

病院の先生だろうか。優しい印象を受ける。

それに比べてのイタイケな看護しだが、さきほどのふざけた調子ではなく、真面目に仕事をこなす職員のように見える。

「すいませんでした。」

「いや、君のせいじゃないよ。私が丁度食堂に行っていたからね。けどまさか目を覚ますなんて、正直考えてなかったよ。」

いい意味で笑顔で人も殺せそうな先生は、少年のカルテを見ながらそう言った。

「身元不明の少年。発見場所は集落内の、あぁあの石碑の前なんだ。意識不明にもかかわらず命に別状も無く、数年間寝続けていた。」

「正直なところ、私もあの子がおきるなんて思っても居ませんでした。まるで人形みたいに眠っていましたし…。」

「それでも少年の目が覚めたのは、君の定期的な検診のおかげといっていいと思うよ。」

先生にそういわれると、看護師は「ありがとうございます」と頭を下げた。

この病院にて、彼がどれほど信頼されているのかが伺えるものだ。


「けれど、どうも妙だよね。」

「妙、ですか?」

「少年にかかっている医療費もろもろ、全部一人の人物が負担していたものらしいんだ。警察の話では身元もつかめないみたいだし、その足長おじさんとの関係も無いらしいし、その人だって行方不明で身元がつかめていない。」

「それって、けっこうマズくないですか?」

「そうなんだけどね。けどどうやら警察の中で『もみ消し』ならぬ『隠蔽』されてるみたいだよ。」

笑顔でさらっと怖いことを言うと、看護師は思っただろう。

それ以上に、少年のことを酷く心配しているのだ。

なんせ数年間のも間、少年のことを見ていたのはほぼ彼女一人だったのだから。

「とりあえず警察に連絡して、捜索してもらいましょう。」

「うん、そうだね。私は彼の病室へ行ってみるから、そっちは君にお願いするよ。」

「わかりました」と短く言うと、彼女はナースステーションに向かった。

長年見ていただけあって、彼女にはどこか自分が母親がわりでなければ、という思いもあったのだが、どこかもう会えないような気さえしていた。

いつかまた会えるだろうかと子を思うような気持ちで、彼女はまた病院の中を駆け回るのであった。


























そうだ。思い出した。

全部思い出した。

僕は、僕は本当に、腐っている。

馬鹿じゃないか。


気がつくと、僕は神社に向かって歩き始めて、いや走り始めていた。

言い表せない焦りが、僕の中をぐるぐると這って行く。


走りにくい絨毯を全速力で走っていく。数段の石段を一気に駆け上がり、境内の扉を勢いよく開ける。

中には誰も居ないがきれいに掃除はされていた。


けど、居る。

僕はそう確信して、振り返って神社の裏に向かう。


相変わらず、シロは嘘が下手だなぁ。解りやすい。

何が『駄目だよ』だ。ぜんぜん諦めるつもりが無いじゃないか。僕が目覚めたときに気づくように、おあつらえ向きなヒントまで準備して。

何だよ。僕以上に一緒に居たいんじゃないか。なら、そうすればいいじゃないか。

どうせケロッとした顔で湖に居て、どうせまた裸で踊ってるんだろう。

そうだろう?

ねぇ。


「シロ!!           















                                                え。」

草木を掻き分けて神社の裏に出た。

そこには湖なんて存在しなくて、かつて「存在していたであろう」ただの大きな枯れた湖があっただけだった。

誰も、居なかった。「なんでだよ!!」


自分でも驚くくらい、大きな声で、叫んでいた。

いったい何に対して起こっているのかも解らず、ただ現実を認めたくないと、子供のように、膝を突いて、ダダをこねていた。


「なんで居ないんだよ!!!嘘じゃないんだよ!!シロは!!シロは居なきゃいけないだろう!!!なんで居ないんだ!!!」


でなければ、本当に報われない。

僕も、僕以上に、シロが。


いやもう理屈とかどうでもいい。


「僕は!!!シロと一緒に!!!居たいだけなんだよ……」


泣き崩れても、どうにもならないことなんて解っているし、識っているし、理解もしている。

けれどもう、理屈じゃ解決できないだろう。そんなことは解っているんだ。


解っているけど、どうにも、ならない。


「何で……」「おーい」


もう何もできないのか。僕は。「おーいってば」


「もう僕は……」


「おーいクロー聞こえるー?」


「何だよ………………………ん?」


ちょっと待て。

おいちょっと待て。

どうしてここでシロの声が聞こえてくるんだ。


「もうクロってば。こっち。」

僕の肩に手が触れる。

暖かくて、小さい手。


「シロ!」ぶよ


ばっと後ろを振り向いた。

そしたら、僕の頬に細い指がぶつかった。


「やーい引っかかった引っかかったー」


無邪気な声が、ここまでの雰囲気をぶち壊すかのようだった。


「お前、なぁ。」


「クロったら呼んでも気づかないんだもん。まったくもーってクロ!?えええええそんないきなり抱きしめられてもっ」


「…ねぇシロ」


「うん、なぁにクロ」


「今、僕、シロに、抱きついてる?」


「うん。」


「・・・ねぇシロ」


「うん?」


「もうしばらく、このままでいてもいい?」


「うん、いいよ。へへへ、初めてクロが泣いた所見た。あんな大声も口調もはじめて聞いた。」


「まぁね…」


「じゃー私も、取り敢えず、言いたいことがあるの」


「・・・ん?」

「私も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あいた・・・・・・・・・・・・・かったよ・・・・・クロ・・・・・」


枯れた湖に、どうしようも無いほど大きく響く二つの白と黒の泣き声。

また此処から始めればいい。また此処から創めればいいんだ。



僕とシロで、この場所から。
































「はい、これでおしまい。」


「えー、よくわかんないよー。」


「いいのいいの。これはお母さんとお父さんの恥ずかしーーーーーーーーーーーーーーーお話なんだから。その内ちぃにも解るから。」


「じゃぁじゃぁ、お母さんとお父さんはその後どうなったの?」


「えっとねー。その夜神社でちぃが生まれるきっかけを」


「変なこと教えるな」


「いたっ。もーいいじゃんかちょっと位ー。」


「ねぇねぇその後何したの?」


「まぁ、なんだろうねー(ほらシロが変なこというから)」


「(ふふふふー)それはちぃがもうちょっと大きくなったら教えましょうねー。それよりも晩御飯つくらなきゃ。二人とも何がいい?」


「いつものがいいー!」


「だってさ。お母さん。」


「しょうがないなー。ちぃもお父さんも。」


「よーし。じゃぁ今日も流し素麺。三人で一緒に湖で。」










 


//おかしな少年と神様の少女//



end