おかしな人間の少年と神様の少女の物語。
それは、まるで夢のような、僕自身きっと夢だと思っていた物語だけど、夢じゃなくて本当の、僕にとって本当に大事な、物語。
      	  	  	  	  	  	      
//おかしな少年と神様の少女//


01.

初っ端から突拍子もなくて意味が解らないけど、『真っ暗』から僕を引きずり出したのは爺ちゃんだという。でなければ僕は永遠にその『真っ暗』に閉じ込められていたらしい。僕はその後、爺ちゃんの孫として引き取らたとかなんとか。
勉強は必要なことだけ爺ちゃんに教えてもらっていたから、学校に入ったことは無い。最初は学校がうらやましかった。けどすぐに興味が失せてしまった。なぜなら、人間に囲まれているより、まだ一人で爺ちゃんからもらった本を読んでいたほうが、楽しかった。どことなく虚無感を抱きながら。
ある時、集落の子供が何人か訪ねてきた。向こうは前々から僕に興味があったらしいが、僕にはこれっぽっちも無いもんだから、何もしゃべらずに、ただただその子供達を見ていた。
それだけなのに、失禁して顔を真っ青にして泣き叫びながら帰っていった子供達は、以来僕には近寄らなくなった。

別にどうということは無いけど、あの怯えっぷりは少し異常だと思い、爺ちゃんに聞いてみた。

「そうなるのも仕方が無いかもしれんな。」
爺ちゃんは僕に言った。
「なんで?」
「子供は純粋だ。お前は形は人間でも、中身は人間じゃないからな。それを感じ取ったんだろうよ。」
「爺ちゃんは人間?」
「ああそうだ、一応な。」
「僕は?」
「そうだなぁ・・・何かの神様かもな。」
「神様?雲の上の?」
「おいおい、神様がいるのは雲の上だけじゃないぞ?目の前の山や川や、特に日本では物にだって神様がいるときだってあるんだぞ?」
「僕はここにいるけど?」
「まぁ・・・そうだな。そりゃそうだ。」

難しい話はよく解らない。僕は未だ子供だから。
そういうことにしておいた。

けど今更ながら思う。そう思う僕自身にとって、ホント皮肉めいた話だなと。

 

それが子供の頃で、今は少しだけ年月がたっていた。
夏、7月。
山に囲まれているこの集落は、今までに無い猛暑に襲われていた。

その暑さに、やる気やいろいろなものを吸い取られた僕は、見事なまでに部屋でだらだらしていた。だらだら選手権なんてものがあれば、きっと良いくらいまで上り詰めれるだろう。なんて、どうでもいいことを考えてしまうほど、暑かった。
唯一信頼できる人間である爺ちゃんは、集落会の旅行で三日間戻らない。
「ちょっくら温泉行ってくらぁ。心配するな、飯はあるし水もある。もらい物だが野菜もたくさんある。3日くらいどうにかしろ。」
といって、温泉旅行だって。ずるいね。
よって僕は一人風通しの悪いボロ家にいるんだけども、何もすることが無い。ただ暑い。唯一のアイデンティティである黒い服すら、今日だけは脱いでもいいんじゃないかと思えるほど。
じっと天井を見続けてもう一時間。そして外は気温38度。
動かないと暑い、けど動けば暑い、だけどこのままでは暑い。
馬鹿みたいな葛藤を続け更に一時間。

もうだめだ。
これ以上だらけていたら、どうでもいいことを延々と考え続けてしまう。最終的に自分を卑下する思考しか働かなくなるのが、僕の悪い癖だ。
それくらい僕が腐っていようとも、流石にこのままでは、体まで腐ってしまう。

「・・・よし。」

右手に持っていた分厚い本は、汗で表紙が軽くしおれている。
少年は本を投げ、立ち上がった!!
そして財布を片手に、玄関から外の世界へ!!

 

 

十分後、僕は挫折を味わう。
やっぱり、 せめて黒い服から着替えておくべきだった。

 

 

販売機で買ったジュース片手に家路に着く。
辛くも目的は果たせたことだけは、僕自身評価してもいいと思う。右手がひんやりして気持ち良いが、それ以外は暑いどころか熱いままだ。
「あちぃ・・・何で外に出ようと思ったんだろう・・・」
既に僕の脳みそは腐っていたらしく、十分たってやっと正常になり始めていた。
勢いだけでこんなことするもんじゃない。僕は心底後悔していた。爺ちゃんの真似はまだできないようだ。
腕時計を確認。時刻にして午後二時。最も気温が上がる時間帯。
更なる絶望が、僕の体を襲ってくるのがわかった。

けど、僕を襲ったのは思考迷路からの絶望だけじゃなかった。
ふらふらした足取りで、石碑の前を通り過ぎたその瞬間、視界が急に360度、ぐるっと廻る。ぐるぐると廻る。
軽い浮遊感に、多少の頭痛を感じた。
思い至ったのは熱中症。
まぁそりゃ、こんなに暑いからなってもおかしくは無いと思っていたけども。

ああ、なんてくだらない。
この暑いのに外に出た自分を悔やんだ。そしてさらに自虐した。

ああもう無理だ、立ってらんねー。
この場に倒れたい、横になりたい。
けど只でさえ人がいないのに、こんなところで倒れたら見つかるころにはぜってー腐ってるよ僕。そもそも、助けてもらう状況なんて、嫌過ぎる。
あぁけど、僕自身もう腐ってんだし、いまさら体が腐っても困らないな。
僕が腐っても困るのは爺ちゃんくらいだろうな。
けどどうするよ、これもう体、45度くらい傾いてる。
腕も動かないし。まいいか。倒れるか。そうだ倒れよう。ぱたっと。
少年ジュースを買った帰りに熱中症で倒れ死亡、なんてのも面白いな。
というかなんで外出たんだっけ?僕はジュースがそんなにほしかったのか?
水飲めばよかったのに、その前にそのまま寝てればよかったのに。
根っからの日陰野郎が思いつきで外に出るからこんなことになるんだ。今度からやめよう。いやむしろ今度なんてないかも。
というか何もすることが無いんなら寝てればいいのに。そこから動かなきゃよかったのに。
そう十分前の僕に言ってやりたいね。本当。

不思議とこういうときは頭が早く回転する。
倒れるまで、きっと1秒も無いのに、よくこうもくだらないことを考えられるなと思った。

こういうの何て言うんだっけ?本末転倒?

はは、くだらない。

 

くだらない僕は、無様にも灼熱のアスファルトの上に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つもりだった。

背中から吹きつけてくる気持ちのいい風で我に返った。

倒れたはずの僕は今、何故か苔が生えた石の鳥居の前に立っていた。
嫌な浮遊感も無い。頭も全然痛くない。
地面はいつの間にか、硬くて熱いアスファルトから、緑色の草が生い茂った、ふかふかとしている地面に変わっている。
あんなに暑かったはずなのに、とても涼しい。
視界の上は緑の木々に覆われていて、程よく光が差し込んで気持ちいいと、つい思ってしまう。
視線を正面に戻すと、目の前にぼろぼろの鳥居が、ずらっと何本も並んでいた。その奥には、さらにぼろぼろの、苔だらけの小さな神社がある。屋根のところどころに穴が開いているのが、またそれらしい雰囲気をかもし出している。

えーっと、ここはどこ?

まず確認だ。
五体満足、怪我はない、手には炭酸ジュース、時計は二時、財布の中には漱石さんが一枚と小銭が少々、財布が寂しい。
うん、異常なのは僕の頭とこの場所と状況だけだ。

さて、落ち着こう。

回れ右。
手首に手を当てて心拍を落ち着かせる。
今までに無い位の勢いで心臓が鼓動していることに少し驚いた。
こういうときは深呼吸をすれば良い。それで目の前の状況を素直に受け入れればいい。さっきまで読んでいたソロモン王の何とかって言うオカルト本でも、呼吸は大事だと書いていた。

 

「・・・よし。」「何が『よし』なの?」

 

息が詰まった。
急に話しかけられたとか、そんなことじゃなくて。
後ろに急に出現した大きな存在感に対して。
呼吸がうまくできない。

思い切って振り向くと鳥居の上に巫女服に身を包んだ少女が一人、いた。
もちろん、さっきまでそこには誰もいなかった。
せっかく落ち着いた心臓も倍の速度で動き始める。

「・・・とりあえず冷静にならないとまともに考えがめぐらないと思って。」
「へぇ〜、驚かそうと思って声をかけたのに。本当に冷静だね。」
「残念ながら、今僕は冷静とはいえないよ。ただ『物語』には良くあるシチュエーションだからね」

巫女服の少女は「成る程」と言って鳥居から飛び降りて歩み寄ってくる。

「久しぶりに人間相手に言葉を使ったような気がするよ。」

身長は大体僕と同じ。きれいな黒髪はその身長と同じくらい長い。

「よかった、君に言葉が通じなかったらどうしようかと思った。」

ただ、後ろでポニーテールのように髪をくくっているから、全部おろしてしまえばその身長よりもあるだろう。

「まさかここが人に見つかるとは思わなかったね。びっくり。」

その少女の周りの空気が異常なくらい清々しい。
近づくだけで改めてよく解る。
一言で言うならば、ありえない。

「あれ?君本当に人間?違うよね?」

僕はともかく、とりあえず、今近寄ってきている少女は人間ではないな、と。
自然と僕の口がゆがんで笑っているような気がした。

「いや、僕は人間だよ。」
「じゃあどうやってここにきたの?」

少女が僕に言った。

「おかしな人間さん?」

 

「知らないよ」

 

心臓が張り裂けそうだった。

たけど、懐かしいような、それでいて大きく、吸い寄せられるような存在感と圧迫感。
今僕の目の前には、同じくらいの身長の、髪が長くて黒くて目が紅くて、胸がぺったんの、やたらと巫女服が似合う、多分人間ではないであろうと思われるかわいい少女が、居る。

笑顔の少女の大きな瞳には、少しだけ苦笑したような感じの僕の顔が映っていた。
残念、口が歪んでいたのは気のせいではなかったらしい。
もうちょっと落ち着け、と言ってやりたくなるような顔をしている。

 

 

さて、巫女服を着た謎の美少女が現れて、にっこりと笑っている。

コマンド選択。とりあえず今からでも、今後の人生設計でも考えようかな。

 

そんな暇なさそうだけど。

ツギ