//おかしな少年と神様の少女//
02.
コマンド、
近いから一歩はなれる。
決定。
というか、僕のほうから自然に後退りしてしまった。しかし少女はどんどん僕に言い寄って来る。
「ねぇねぇ、君はどうやってここに来たの?」
ぐいっと、顔を近づける少女。
近い。これぞまさしく目と鼻の先だ。
彼女からする香りが鼻をくすぐって、不謹慎にもいい香りだと思ってしまった自分が情けない。
そもそも僕は他人に、しかも異性にこんなに近づかれたことが無い。
しかもその異性というのが、美がつく少女だから困った。
心拍数が上がっているのが判る。一歩引いて、深呼吸。
はぁ。
とにかく落ち着こう。今するべきことはそれだと思う。
「解らない。気がついたらここにいた、ということなんだ。というか君は誰?」
「私?まー、神様。」・・・落ち着け、落ち着け僕ー。
そんなにっこりとした可愛い顔でそんなこといわれるとは思ってなかったけど、落ち着け僕ー。「えーっと、その神様が何故にこんなところにいるんでしょうか?」
「そりゃあこの神社の神様だからー。ぶい」
ぶいじゃねーだろう。少女の顔から少し視線を逸らすと、苔だらけの神社が見える。
なるほど、あの神社の神様か。巫女服だけど。冷静に考えれば、普通はありえない。
知らない場所で目が覚めて、そこにはボロい神社があって、巫女服の美少女が居て、しかも私は神様なんです、と来た。だが僕には不思議と、信じることが出来てしまった。
まぁなんでというと、何か説得力無いけど、『物語』にはよくある話だったから。
もう一回深呼吸。
はぁ。
「そうなんだ。」
「あれ?驚いたりしないの?」普通の人なら驚くよりも、君をバカにしていると思うけど、あえて口には出さなかった。
「まぁ、うん。」
一度状況を受け止めてしまえば、何でも信じれるような気がする。
「実はここは地球じゃありません。」なんて言われても、それを証明するような風景が見の前にある。
屋久島か、はたまた白神山地とか、きっとなんかそう云う場所にでも行かないと見れないような風景だ。
ぐるっと見渡す。
上は草木のトンネル。下は藻や苔でふかふかの地面。少し奥に行くと、その空間を覆うように木々が生えている。
10段くらいの低めの階段の先、そこには苔にまみれた古ぼけた神社が有る。これぞまさしく、大自然が生み出す芸術、という感じだ。
「まぁ、こんな状況だからね」
「そっかー」
どこと無くつまらなそうな顔。
この神様は、感情表現が僕と違って豊富なようだ。
わかりやすいと言った方がいいかも。「うん、こんなところで立ち話もなんだからこっち来て!」
僕の手を握ると、ぐいっと引っ張られた。
「いや、ちょっと」少女は万遍の笑みを浮かべ、僕の手を引っ張って走り出した。
その細腕のどこにそんな力があるんだといわんばかりに、僕をぐんぐん引っ張っていく。
髪をなびかせながら鳥居をくぐり、苔の地面を走って、あっという間に階段の前。階段の前まで来て気づいたが、どうやらこの苔の地面は本当は石畳らしい。
かなりの永い時間、人の手が加えられていないことが良く解る。てか、手をつないだまま階段を上らないでほしい。足元があまりよろしくないって云うのに。
「そんなはしゃぎながら階段は」ずるっ「にゃっ!!」
「おまっあぶな」い。が口からでなかった。
案の定、少女は足を滑らせて、体を大きく仰け反って、華麗に宙を舞った。アイキャンフラーイ。
いや、冗談を言っている暇は無い。
宙を舞う少女を、僕が後ろで受ける形になる。
受けるなんて聞こえはいいが、そのまま勢いついて、僕も一緒に地面に押し付けられた。簡単に言えば、少女が僕の上に仰向けのままのしかかってきたのだ。
どすん
「げふぅ」
なんて擬音が本当にあるってことを始めて知った。口から出たけども。
けど、少女の体重が軽く、地面がふかふかで良かった。
「いたたー、ごめんごめん、はしゃぎすぎた。」
「・・・わかったから、頼むからはやくどいてくれない?」
「あはは、ごめん」悪い、とは思っているらしい。感情が良く顔に出る少女だ。
「よいしょっ」
くるん、とはねて起き上がる少女。ただし下には僕。
どん
「うぐは」
という擬音も本当にあるんだなとはじめて知った。
今日は知る事だらけだ。
本日は吉日か、はたまた厄日か。ぱんぱん、と巫女服についた汚れを払う少女。まだ僕の上である。
「うし、だいじょー・・・ぶ?」
「・・・人の上で・・・はねるな・・・」少女の踵が、僕の腹筋めがけて容赦なく落下。
前言撤回、悪いと思ってないだろう。ただ、手を差し伸べてくれた少女はさっきと同じような、困ったような顔をしていた。
「ははは、ごめんね。」
少女に手を引かれ起き上がる。
改めて少女の前に立つと、僕と対して背が変わらなかった。
不思議な感じだ。こういうのを、『初めて会った気がしない』というのだろう。
まるでどこかの仲いい幼馴染、みたいな。
と何を僕は考えているのだろうか、と思っていたら、
「不思議なんだけど、君は・・・なんかこう・・・仲のいい幼馴染みたいな。そんな感じがするね」
少女は「えへへー。」と笑みを浮かべなが云って、再び僕の手を引いた。
「こっちきて!」
うん、まぁ、悪くは無かった。