//おかしな少年と神様の少女//

//二匹の兎//




02.













たとえば、シロについて。

様式としては巫女服着たり、なんか神様っぽい白装束とかも着るから、 日本に伝わる『神様』の類なんだろうけど、実際は関係なかったりする。
もし位をつけるのだとしたら、手に負えないくらい遥か彼方の存在、いやもっと向こうの存在だ。

因みに、僕は成り上がりとはいえ、シロと対する存在であって、 シロと対等の位置に居ちゃったりするのだ。
まぁぶっちゃけると僕も『神様』って類の存在なんだろうと思う。
けど『神様』ってともなんか違うような気がするから、 元『真っ暗』って云った方がその手の方々には僕のことについては十分伝わるんじゃないかな。
それと、今は自称『真っ黒』。
あ、自称って言っても、これシロがつけた名前だけどね。

それでも、世の中にも外にも、シロと僕みたいなヒトは沢山居て、 なんとなく図書館の館主やってたりするヒトも居れば、 人間のスペックで万国びっくりショーを平然とかもし出す僕の爺ちゃんだって居る。
この神社がある場所みたいに、世界は意外と狭いようで広いのだ。

それに、僕もシロも外見は普通の人間となんら変わりは無い。
ただそれっぽい力が使えて、それっぽい繰り返した過去があって、 それっぽい立ち居地に居るってだけで、あとはなんら変わりはしない。
僕にいたっては唯シロのことを死ぬほど愛している少年ってだけで、 シロにいたっては唯貧乳って言っただけで僕が死にそうになるほど僕を愛してくれている少女ってだけだ。
それに神様の癖に嘘が下手糞で感情が顔に出て変態で天然でかわいくてきれいで美しくて、ちょっとあほな子っぽいところがあったり貧乳って云ったら・・・おっと以下省略。

そんな感じなのだ。

本当に僕らはなんら変わらない、
其の辺によくいる唯のおかしな少年と神様の少女ってだけだったりするのだ。
うん、よくいる。普通普通。
イエス ノーマル。

ということで、
『物語』の主人公が後になってやっとで登場ってのも、最近ではよくあるんじゃないかと思うんだ。

真打登場!

なんてね。

「くーろー、そんなところで黄昏てないで手伝ってよーぅ。」
「おーういういー。」

春。桜。決して桜の花びらが神社の中に入ってきて片付けが大変だとか思ってないです・・・ごめんなさい嘘です。

実界と虚界の狭間の結界の中にある、ボロっちぃ神社があるこの山でも、 桜が多い尽くす季節になって、家族も一人増えて、 僕は折角の景色と春眠を石段で堪能している最中に娘のオムツの処理を妻から託されていた。
今では廃屋の僕ん家がある集落でも桜は満開で、現在桜前線が零年余里(例年より)長い期間で日本横断中のようだった。
裏の湖に満たされた水には桜の花びらが一面に敷き詰められていて、 この季節、澄んだ空気の中、静かにさす月光に照らされながら揺れる桜色の水面を眺めながら、 夜酒を楽しむこと程に気の落ち着くものは無い。
僕あんまし飲めないけれど。甘酒で顔真っ赤になってしまうんだ。
その代わり、シロはかなりのもんです。

そうそう、桜のつぼみが開き始めた頃にちぃが生まれて、数えるともうそろそろ一ヶ月。
夜泣きもするし、育児は大変だけれども、シロと二人でがんばってるわけです。
岩窟の聖母ならぬ境内の女神はすっかり母親になっていて、
となると、僕も父親になっているのだが、どうやら僕は不甲斐ない父親らしく、まだそれらしいところを一度も見せたことが無かったりする。
けど、まだ泣いているだけの娘も、いずれは僕の記憶が正しければ、シロそっくりの美人になると考えると、どこかうるっとくる。これが父親ってもんなのかも。
ちなみに次の楽しみはパパとママどっちを先に呼ぶようになるのかだ。望み薄だけど僕だったらいいなぁ。

そんなかわいい僕とシロの娘の顔を拝みに、夜な夜な腕試しをしに来る妖の類(というか今じゃ皆さんご近所みたいなお付き合い)は未だに減らないけれど、そこと無く黒い少年と白い神様は家族そろって平和な日々を過ごしておりましたとさ。ちゃんちゃん。

「って、おわっちゃだめか。」

あまりいいとはいえない香ばしい匂いが漂う紙をゴミ袋に永久追放する。
泣き止まない娘の声はいつの間にか収まっており、境内を覗くと母親の(最近なかなかの成長を遂げた、てかもう貧乳とも呼べないかもしれない)胸の中で、僕の代わりにぐっすり春眠を味わっていた。
このまま何も無ければイーナー、なんて思ったのがいけなかったんだろうか、珍しい客人の訪問によってものの見事に崩壊してしまったのであった。
といっても、僕だけだけど。ちゃんちゃん。

「・・・や。」
境内の入り口に、蒼白い長い髪の少女が片手を上げて、そこに居た。
シロはともかく、この人たちの出現は僕がいくら気を張っても感知できないから、『そこに居た』という表現しか出来ない。
ただ、光る羽のようなモノが彼女の周りに舞っている所をみると、やっぱり『今来た』という表現でいいのかも。
まぁ表現の自由だ。閑話休題。

「おー!あーちんだー!」

とシロがあーちんと呼ぶ少女を見るなり飛び込んだ。大きな胸に。
それを彼女は避けて、石段の下のほうで「ふにっ」という情けない効果音が聞こえた。
あまり気にも留めないことにして、僕は彼女に手招きをして「あがって」と勧めた。
「あ、いや・・・すぐ帰る、から。」
あいかわらず口数が少なくておとなしい人で、少女の姉とは大違いだ。
清廉な雰囲気を(実際に)身に纏ってるから、普段のシロよりもよっぽど神聖なイメージを持ってしまう。
まぁシロが少々特殊なだけで、彼女は本当にそういう存在らしいからなんだろうけど、残念ながら僕は彼女の素性をあまりよく知らない。
後でシロに聞いてみるか。
「えー。ゆっくりしてってもいいんだよー?」
下から這い上がってきたシロがそう云う。
髪や巫女服に桜の花びらがついていた。
「ん・・・・・・・・・じゃぁ、おじゃま…します」
といって少女は靴を脱がずに、腰を境内に下ろした。
「おじゃましちゃいなさいな」と言いながらシロも中に戻ってきた。
「あーちん」ことアインさんは、視線を僕の隣で熟睡しているちぃに向けると、口から「かわいい」という言葉が漏れた。
「お二人に、そっくり。」
くすくすと笑いをこぼしなが言う。
その言葉を聞くと、やっぱり僕は父親なんだろうなとまた実感する。
けど僕の目からすると、まだ僕とシロに似てるかどうかは・・・正直わかんない。
やっぱりこういうのって第三者からの見え方なんだろうなぁ。
というか僕よりシロに似てくるようになるから、ちぃは将来有望だ。おとうさん嬉しいなー。

で、その問題の母親は、来客者にさっそく手を出そうとしていた。
「シロ」と一言釘をさすと、神様はビクッとしてこちを見るなり頬を膨らませた。
死角から後ろでにアインさんの胸に延びていた手を引っ込ませる。
お前はオヤジか。お前がオヤジか。

すると思い出したように、シロは「そうそう」と切り出してアインさんの顔を見る。
「あーちんが一人で来るなんて珍しいね、どしたの?」
滅多に来ない来客者が、しかもいつもならクゥさんと二人でそろってくるのだけれども、本当に珍しく一人で来たのだ。(ちなみに、この少女を含めたくぅさん一家にとって、ウチの結界なんて無いようなもんだ。
それでもくぅさんは嫌がらせのようにいちいち結界をやぶり抜けてくるけどね。)
アインさんは「んー・・・」という数秒の沈黙の後、はっと思い出したように口を開いた。
「えっと、姉さんがクロさんに、頼みごとが在る…って。」
「ん、僕?」
ふーん、なんか嫌な予感。

くぅさんの依頼となると、大体は暇つぶしか、もしくは本気でまずい状況かの二つと思っておいてもいいだろう。
もし「暇つぶし」ならなんてことは無いんだけれど、もし「本気でまずい」の方だったなら、本当に厄介ではある。
なぜならば、クゥさんの下には「浄点」がいるからだ。
「くぅさんは僕に何て?」
その確認の意味も含めて、僕がそう尋ねると、彼女の持つ雰囲気が微妙に変化した。
なるほど、「本気でまずい」方ですか。
気の抜けたというと語弊があるかもしれないけれど、
そんな目をしていた来客者の目付きが、ほんの少し変わった。
いや、目付きより少女の周りの空間の変化の方が、遥かに感知できる。
だが、程度は抑えてくれているようだ。眠っているちぃが泣き出さないからね。
「クロさんに、お仕事手伝ってほしいって。けど…浄点と四神の使い手には見つからないようにって、言ってた。」
おとなしい口調ではあるが、その言葉に隠れた「重み」みたいなのがひしひしと僕にもシロにも伝わる。
特に「浄点」「四神」の二つに関しては、彼女自信、無意識的に口調を強めていることについては気づいちゃいないだろう。
しかも思ったとおり、「浄点」という言葉が出てきてしまった。
千里眼すら超えるような力を持ってるその子に見つかるなって方が難しい話だ。
もう一人の「四神」の使い手は、恐らくあのとき偶然結界の割れ目から入り込んだ髪を左右で二つ結っている、ツインテールの女の子のことだと思う。
あの周りにいた使い魔が本当の四神かどうかは解らないけれども、予想通りクゥさんにかかわる人間だったらしい。

どちらにしても、厄介な話だ。
完全な予想だけど、四神の使い手のほうは相当な術者のはずだ。
偶然とは言えども、あのとき結界に入り込んだときの反応で解る。
場慣れしている感じだった。
もう片方の浄点の使い手については未知数だけど、僕がもしその子に見られた場合の予防か対処法とかは用意しておいた方がいいのかもしれない。
間違って視られでもしたら、かなり面倒だし。
「シロ」
「うん、解った。」
シロの顔を見て名前を呼ぶ。それだけでシロは僕の言いたいことを察知してくれて、しっかりとした眼差しを向けてくれる。
来客者は続けて口を開く。
「用は一日で済むだろうから、シロちゃんが心配することは無くて、クロさんもシロちゃんやちぃちゃんを心配することは無いって、姉さんそう言ってた。」

「「いやいや無理無理。」」

即答。ハモった。誰と誰がというのは言うまでも無い。

「「私(僕)がクロ(シロ)とちぃのことを心配しないわけが無いもん(からね)」」

異口同音の僕らを見て、彼女は「やっぱり」と笑みを浮かべながら言った。
自分で言うのもなんだけど、やっぱり僕とシロはー、って思う。
人様から見てもやっぱりそんなもんなのかな。まぁそれを確かめるために聞こうとは思わないけれど。
あぁ因みに、『何が?』というのは割愛。愛だけに。

「あと、姉さんがこれを言うと、クロさんは必ず協力してくれるからって言ってた。」
「ん?」
少女が一息つくと、改めて口を開く。

「今回のことは、昔クロさんのおじいさんが一枚噛んでたことだって」

…ほぅ、なるほどね。
これはあくまで、僕が協力を断ったときのための切り札的なものだったんだろう。
まぁそうじゃなくても、僕らのところに話が回ってくるってことは、相当な話になっているって思っているから、 最初っから断るつもりは無かったんだけども。
まぁけども、

「爺ちゃんが、か。」


行方不明の放浪者。僕の祖父。
意外な人が出てきたもんだ。

つい最近まで僕は夢と現実の境界がわからない世界にいたから、 爺ちゃんのことも不確定だったんだけれども、 こうも各所で情報が上がってるとなると、行方くらい探りたくなる。
最近近くに現れたみたいだけど、折角来たんなら孫とその嫁の顔くらい見てったらよかったのに。
折角だからひ孫の顔も見にきてくれてもいいのになぁ。
といっても仕方が無いだろうけど。

「うん、といあえず爺ちゃんのことはわかった。てことで、そろそろクゥさんの頼みの内容、教えて。」
あまり驚いていない僕を見て少々彼女は、意外そうな顔をしながらもコクンとうなずく。
頭に生えた二本のアホ毛が彼女の動きにあわせて揺れる。

「クロさんには」という出始めで、来客者は静かに口を開き始めた。

 





ツギ