//おかしな少年と神様の少女//

//二匹の兎//




04.












なかなか寒い。
お気に入りの帽子に灰色のハイネックにジーパンと、トップスの上着を腰に巻いて、あえてその上着を着ずにコートを羽織る。それでも結構な重装備だと思っているのだけども、春先のヨーロッパの風は寒い。

飛行機の中で一寝して、ここについたのはつい先ほど。
日本では夜の10時くらいなんだろうけど、ここは未だ昼の1時だ。人通りもそれなりにある。
観光客が多いのか、待ち行く人々は日本人の私のことを物珍しそうに見たりはしないけれど、逆に私が待ち行く人々のことをじろじろと見ている。
髪の色も目の色も肌の色も、見れば見るほど此処は日本じゃないんだなぁと思い知らされる。というかこっちの人って背が高いし綺麗。うらやましい。

勿論、同時に此処の気の流れを感じ取ることも忘れてはいない。やっぱり触れたことの無い流れだからある程度違和感はある。なんていうか、いつもと違ってスーッと流れていく気がする。それでも、いつも通りの感じでいける気がした。何がよくて、何が悪い流れかってのは、識別できる気がする。

正直に言うと、風水なら今なら誰にも負けないような気がしているほど、自信はあるのだ。占いに勝ち負けなんて無いんだけど、なんていうか、予言っていうわけじゃないけど、正確に先を読み取れる気がする。
まぁそれでも、私の運が悪いことと、自分の運勢だけは占えないってのは変わりないんだけどね。
まさか財布忘れて、クゥさんから借りることになるなんて思わなかったし、まさかイギリスまで来て、またメガネが壊れると思わなかったし、携帯は無事だったけど携帯音楽プレイヤーが壊れる始末。ついでに今迷子。そしてたった今携帯の電池が切れました。いつも通り過ぎて涙が出そう。

まぁこういう時だからこそ、気の流れを辿ればいいんだと気づいたのは、結構最近の話。前に真琴と買い物に来て、始めてきた場所で迷子になったときに思いついたのだ。えっへん。
特に、真琴の気よりも、一緒に居るあの子達のほうが力強くて辿りやすい。むしろ今まであの子達のことに気づかなかったのが不思議なくらい。これも冬にクゥさんと出くわしたことのせいなのかなぁと思ったりする。

「此処を曲がる、と。」
体で感じる流れをしっかりと逃がさないようにして、辿っていく。クゥさんの図書館にある本とか、テレビでは見たことのあるレンガつくりの街並みや、日本には無い数多くの有名な大聖堂の数々を眺めながら、通りを歩いていく。
ロンドンの空港に降りて、町に出るまでは一緒だったんだけどなぁ。いつの間にか二人とも居なくなっちゃって。しかたないなぁもう。

・・・・・・・・・・・・・・・なんかごめんなさい。

この特技のおかげで、迷子スキルは日に日に解消されていってはいるものの、やっぱり外国じゃそうもいかない。迷子なんてたやすいのだ。えっへん。
いやいや威張るな私。

歩みを進めるにつれ、かのロンドン橋と時計台が見えてくる。
クゥさん曰く、ロンドンには魔法学院があるらしいんだけど、この妙な色の流れはそこから流れてくるものなんだろう。この辺はさまざまな流れが混在していた。それでも、目的の流れは見失わない。というか、これが最後の命綱なんだから、見失ったら・・・・・・・・・考えないでおこう…。

次第に四神の流れを明確に捉えることが出来た。この建物の中に居るんだろうなと確信した。確か、大英博物館、だっけ?
やっぱり此処は人通りが多い。子供からお年の召した方までいろんな人たちが出入りしている。中には私くらいの年の男の子や女の子の集団、しかも日本人らしき人も出入りしているのが見受けられる。
そういえば、私の住んでる街にある私立の高校は、暇が無いからGWに修学旅行に行くって言うのを聞いたことがある。知り合いはそこには居ないから解らないけれど、もしかしたらその集団かもしれないと思った。

中に入るとすぐに、おなじみのツインテールが見えた。
「あ、やっと来た」
と、私を見るなりそう言ったのは真琴である。此処で待っていてくれたみたいだった。まぁ真琴はツンデレだから「ずっと待ってたんだよ?」とか言わないだろうけど。
それを想像して、真琴の前でついふふっと笑ってしまった。
「・・・あのねぇ露華、人が折角待ってあげてたってのに、ついて親友の顔を見るなり笑うってのはどうかと思うんだけど?」
腰に手を当てて真琴は言った。
「あ、待っててくれたんだ。ありがとう真琴」
と、私は(わざと)ニコッとした顔で返す。
思ったとおりに、真琴は顔を赤くして「あ、いや、べつにそんなんじゃない・・・ヮょ」とお決まりの台詞を言ってくれるのだ。なんかこの辺、私の性格クゥさんに似てきたのかもと思った。

「あれ?クゥさんは?」
私は真琴に聞いた。
「『じきに露華が来るだろうから、少しの間此処で待っててくれ。ちょっと此処の館主とひせびさに話してくるよ』だってさ。」
クゥさんらしい、全部お見通しってわけですか。私が迷子になることも計算に入れてる辺りも、本当にクゥさんらしい。
「ねぇ露華、クゥさんってなんであんなに知り合い多いの?なんかウチの母さんとも面識あるっぽいし。」
「私にもわかんない。意外なところでクゥさんって顔広いからなぁ」
今回の仕事の依頼主にしても、冬の依頼にしても、この博物館の館主というのも、変なところでクゥさんは知り合いが多いのだ。どういうわけかは解らないけれど。

「おぉ露華、やっと来たか。相変わらずお前は直ぐ迷子になるな。」
クゥさんが少し年の召した女性の方と一緒に戻ってきた。多分あの女性が此処の館主なんだろう。館主つながり?
英語で会話しているみたいだ。残念ながら英語の学力があんまりよろしくない私には、最後のbyeっていう単語しか聞き取れなかった。
「久々にロンドンに来たからな。知り合いに在っておきたいなと思ってね。」
「クゥさんロンドンに来たことあるんですか?」
「ん?そりゃぁな。じゃなきゃ此処の館主とも知り合いじゃないし、何しろ今回の依頼とて来ないだろう?」
本当にこの人は昔何をしていたのだろうか。疑問には思うけど、私は深く考えないことにした。考えるとキリがなさそうだからである。

「さて、先ずは、宿の確保と温泉だ。温泉温泉♪」
と、音符がつくほど気分がいいクゥさんは、なにかものすごく怪しい。またセクハラされたりまた面倒に巻き込まれないといいなぁ・・・・・・・・・なんて思うのは間違いなんだろうなぁ。はぁ。
「というかクゥさん、ロンドンって温泉ありましたっけ?」
確か習慣で風呂に方まで浸かるってのは日本だけだったような気がするけれど。
「感覚的には日本の温泉プールみたいなものかな。数年前にオープンしたばかりのスパがあるんだよ。まぁそれでも揉むには十分だろうな。」
最後の一言は聞かなかったことにしよう。

博物館を出て、(今度こそはぐれないように)二人と一緒にバスに乗る。
肌寒いというのに、白いコートを羽織っているとはいえ、たかがワイシャツとジーパンだけで、胸の辺りとかをここまで露出度を高くしているクゥさんは、どこに居ても自然と目線を集めてしまう。クゥさんの前に立っていた中学生くらいの男の子が、何かかわいそうに思えた。目のやり場がないだろうなぁと、すごい気持ちがわかるから同情してしまう。

「・・・てかクゥさん、本気で此処に止まるんですか?」
バスから降りてホテルのロビーに入る途端、真琴はそうクゥさんに聞いた。私よりも先に。
というか、こんな天井の高くて広くてセレブっぽい方々が悠々と歩いているようなホテルに、私たちが居ること自体おかしい。恥ずかしい。
中には日本人らしき人も居た。黒髪のショートで、クゥさん並にスタイルがよくて、隠すとこだけ隠したといわんばかりの黒いドレスを来た美人の女性がいた。つい「綺麗」と言葉を漏らすくらいだ。
女性はこちらの視線に気づいたのか、こちらを向いて私と目が合った。こっちはそれだけで参っちゃいそうなのに、向こうは礼儀正しくおしとやかに笑みを浮かべてお辞儀を返してくれた。
あわててこっちもお辞儀を返すも、顔を上げると女性は既にエレベーターにひとり乗って行ってしまった。
そのやり取りを横目で見た真琴が私に呟いた。
「ねぇ露華、私たちめっちゃ場違いだよ」
「わたしもそう思う。というか皆こっち見てるんですけど・・・」
私たちは兎も角緊張していた。お互い顔が赤い。

クゥさんがチェックインを済ませて戻ってくる。ものの数分が、私たちにはとてもと長く感じた。
「お前達顔が真っ赤だぞ。なにを恥ずかしがってるんだ。あぁそうかもう夜が待ちきれないのか。今日は3p」「ちがいます!」
・・・間髪入れるのが遅かった気がする。それでもどっかで止めないといくところまで言ってしまうから困る、この人は。
「まぁ冗談だ冗談。」その言葉に私は疑問を持たざる終えないです。

「さてさて、ということで行くぞ。」
「いくって、どこにです?」
「オーガ二z「クゥさん」」
隙あらば突いてくる。あぁいや、そういう意味じゃないけどさ。
「あぁもうわかったよ。」と残念そうにクゥさんは言った。

「部屋にだよ。最上階の一番高いのはもう使われてたんだがな、折角だから深夜は私たちの貸切にしてもらった」
そう云うと、喜んだ顔をしながら私と真琴の袖をつかんで引っ張っていく。
何かいつもの感じと違って、まるで子供みたい、と思った。
あれ、一番高い?貸切?
あなたどんだけお金持ってきてるんですか。というかあなたどんだけツテがあるんですか。

因みに、真琴の顔は、クゥさんが夜がどうこうの件を話したときから真っ赤だ。口がパクパクしている。
真琴が弄られて蒸発しないかどうか不安になってきた。あぁ勿論、私もだけど。
そんなことを思いながら私たちはエレベーターに乗って部屋に向かうことにした。白状すると、ものすごく温泉が楽しみな私がいたりするのだ。
とりあえず、落ち着きたい。ぶっちゃけ疲れましたから。

んで、コレは流れ的な、占いでもなんでもなくて、話的な流れでいけば、明日はもっと疲れる。
皮肉にも、かばんに手を突っ込んで引いたカードは16番。塔だった。意味は災難だったりする。

 





ツギ