//おかしな少年と神様の少女//

//二匹の兎//




06.













『くろー、きこえるー?』

「おー聞こえる聞こえるー。感度良好ー。」

『くろってばえっちー』

なにを今更、ごもっともでございます。
・・・ごめんなさい嘘です。

「ちぃは?」

『さっきご飯食べて寝たよー。』

「わかったー。」

ぺらぺらとした和紙で出来た御札。そこからシロの声が聞こえているのだ。
もちろん、それを通して僕の声もシロに届いている。
今で言うケータイのようなものなんだろうけれど、僕やシロはそんな高級品を所持しているわけが無いから、シロのお手製の御札で神社にいるシロと会話する。
簡易電話みたいなものだ。けど使い様によってはケータイよりも便利な優れものだぜイエイとか、そんな感じのことをシロがいっていたような気がした。うん、言ってた。

『クゥは?』

「クゥさんは見つけてないけど、その浄点と四神遣いの子なら見たよ。今同じホテルにいる。」

『ホテル・・・あ、泊まるところ。』

「そうそう。にしても、ねぇシロ」

『なぁにクロ?』

「・・・この体、どうにかならないものかな・・・」

『えー。いいじゃんないすばでーで。クロの胸たゆんたゆんしてるじゃーん。黒いどれす似合うじゃーん。』

「・・・・・・まぁ、いいけどさぁ・・・・・・」

僕としては、シロに今僕が着てる黒のドレス着せてあーだこーだしたいんですけどね。これスースーするし、背中開きすぎだし。ちょっとえろっちぃ。絶対シロが着たほうが似合うってコレ。
此処まで語ると解ってもらえるだろうか。何を隠そう、僕はまた女の子に成っていたりするのだ。はははは。はぁ。

けどまぁ、勿論理由はある。
単に、僕の持つ『真っ暗』を押さえ込むことが出来るのだ。今は『真っ黒』で呼称してるけど、これはシロと対になっているからこそのものだ。だから一時的に僕の陰陽を反転させれば、極端な話、僕は人間のスペック+α位に押さえ込むことが出来る。本当はもっと複雑で面倒なんだけども、要点だけならそう云うことになる。
「陰陽の反転なら、手っ取り早いのが女体化!」
と、シロが勢いづいて言うもんだから、僕は抵抗する術もなく、する気もなく、こうなる。
シロの力でこうなっていると言っても、頑張れば僕一人でも十分解くことも出来るし、ちゃんと男に戻れる。前回はそうだった。
ただ心なしか二重三重に仕掛けを施されている気がするのだ。気がするだけで、そうでないことを祈っているけれど、祈る相手の神様が仕掛けたことなら元も子もない。
だいたいクゥさんも人が悪い。こうなることが解っていながら、僕のサイズにピッタリの黒いドレスを送りつけてくるんだから。あとでシロの分も貰う事にしよう。よし抜かりない。さすが僕。

それにしても、本当にコレだけで浄点の目を欺けることが出来たとは、思いもしなかったというのはある。千里眼よりも強力という事は、そのものの本質や構造も全て見抜くということなんだろう。
それに本人は無意識ときている。それが一番厄介。
・・・・・・僕とシロが視られた場合、なんて考えたくも無い。特に僕。

「私も・・・厄介・・・」

右斜め下の辺りから聞き覚えのある声が聞こえた。まぁそりゃ一緒に来てるからそうですけどもね。
身長がさっきの二分の一くらいになってるアインさんがいた。ベージュのハイネックセーターに紺色のスカートと黒いニーソックス。
シロ曰く『幼児化』とかなんとか。コレも多分、浄点の対策なんだろうけど、僕はアインさんが何者なのかあまりよくわからなかったりする。本人に聞くのもなんか失礼だし、そもそも聞くこと自体が間違ってる可能性だってある。
クゥさんの妹って言うんだから、なんとなく見当はつくけれども。

「そういえば、アインさんはどこいってたの?」
「・・・温泉・・・」
・・・イギリスに温泉なんてあったのか。
抜け目ないというか、ちゃっかりしてるというか、やっぱりそのへんは姉妹なんだろうなぁ。似てる。
「まぁ、僕達に出来ることは今回あんまり無いから、ほとんど観てるだけって言っても過言ではないんだけどね。それこそ温泉にずっとつかってても問題ないのかも。」
まぁきっとそうもいかないんだろうけど。

着替えるにあたって、女性の前ってのもあって多少ためらい気味にため息を吐きながらドレスを脱ぐ。というか最初からドレスじゃなくて普通の服着て行けばいいじゃんかよー、って懇願したけども、神様にキャッ化されたのです、ええ、キャッ化。
薄っぺらいしやけに布の面積が少ないのは、きっとシロとクゥさんの仕業だろう。大事なことだから言っておくが、僕は男です。男。

「くろさんって、体綺麗」

ぽけーっとした目で僕の体を見て言うアインさん。
・・・いや本当は男ですよ僕。
ちなみに、率直な感想を言えば、アインさんの方が美人だと思うのだが。あぁ、ウチの白いのは

『もっと美人。だよねクロ?』

・・・札越しに人の考えてることを読むんじゃないよ。全く。
「はぁ」とため息をつくと、アインさんがクスクスと笑った。きっと僕の顔が真っ赤になってるからだと思う。
札の向こうでもシロが笑いをこらえているのが解る気がした。というか、声が思いっきり漏れてる。

「・・・まぁ、いいや。シロ、下着頂戴」

と札の向こうにいるシロ話しかけると『ほいほい』とシロが答えて、札から下着が出てきた。
このお札は電話としての機能のほかに、どうやらモノを転送することも出来るらしい。神社の結界の原理を応用してるみたいで、空間の湾曲した先を弄る。まぁ確かにそうすれば人だってものだって遷すことは出来る・・・多分。
少し気が引けるけど、女性用の下着を穿き、つける。その上にシャツと上着とズボン服を着込む。ちょっと寒いからコートも着ることにした。全部黒色系統。

「これで、よし。」

性別が反転していることを除けば。

「とりあえずは、その『魔女』がいたところにでも行ってみますか。」

折角の旅行だし、観光しないでどうしますか。

 






ツギ