//おかしな少年と神様の少女//

//二匹の兎//




07.













「まー此処までは予定通りか。あいつらの方が先に来てたみたいだしな。」
と、貸切のスパにある露天風呂で、館主が天を仰ぎながら考える。両腕を組んで体を伸ばしながら喉を猫のように鳴らし、体をひねらせる。
何をどう嗅ぎ取って判断したのかは不明だが「匂いだ匂い。アインはいい匂いがするんだよ」と云っている。
そのアインの匂いを嗅ぎ取って、館主ことクゥは、自分の妹の到着を確実なものとしていた。
事実として、彼女もついさっきまで、この露天風呂のお湯に浸かっていた。

一体、彼女は普段どのようなデスクワークをしているかはわからないが、そうとうに凝った肩をほぐしながら疲れを癒している。
いや、肩が凝るのは恐らく違うところに在るとは思うる。蒼い色の温泉に浮かぶ館主の影、彼女の体のスタイルのよさから伺える。
長く青い髪を頭の後ろで綺麗に束ね、普段髪で隠れている首筋があらわになり、より一層、普段よりも神秘的に、より一層、美人が引き立っている。

いったいどういうコネを使ったかは、露華と真琴には想像もついていないが、まぁどうせいつものことだし、と半ば諦めが入っている思考で、彼女達も蒼い色の温泉に浸かっている。
露華は眼鏡をはずし、タオルで前を隠そうとしているが、正直なところ、館主並にスタイルの言い彼女の体は、タオルでは隠しきれていない。ただ彼女自身、眼鏡がないせいでよく見えていないせいか、タオルで隠れていないことに気づいていない。
ちなみに、館主ははなっから隠していなかったりする。
一方真琴は、普段ツインテールにしている髪を解き、背中の真ん中くらいまである長い髪を下ろしていた。
少々小柄な真琴の体は、露華よりも面積も体積も長さも膨らみも小さいため、すっぽりとタオルで体を隠していた。大事なことなので二度目だが、館主ははなっから体を隠そうとしていない。
勿論、真琴の遣い魔である四神達も居る。彼らからはそれぞれの動物的な特徴が伺える。青龍と玄武は心地よさそうに風呂に浸かり、玄武の甲羅の上はいつも通り白虎の指定席になっている。
青龍はもともと水の使いであるし、玄武も元をただせば大亀に近い。白虎は虎で猫科であるせいか、お湯に浸かるのを少々躊躇っているようにみえる。
元をただせば、神様とはいえ動物なのだ。やはり世界っていう存在は、その辺大雑把に出来ているのだろう。某白い神様とのと黒い少年のように。と館主は思った。

「っはぁ〜・・・」
温泉につかった体と心を思いっきり伸ばす。実は当の本人も、ここまでいい温泉だとは思ってなかったのだ。
「せいぜい12畳ほどの大きさがあればいいもだとは思ってたのだが、時代、変わったなぁ。」
12畳どころか、このスパには何種類かの温泉(水流があったり、牛乳風呂があったりなどなど)が集まっていて、更に今彼女達が使っている露天風呂は、ロンドンの町並みや、古都、寺院や遺跡などなど、ある程度の観光スポットを一挙に見渡せることが出来るほどの絶景を持ち合わせている。暗くなりかけているおかげか、星もちらちらと見え始めていた。
そもそも、一体この館主は何年前のそれと比べているのだろうか。その思惑を知るのは恐らく、彼女の関係者でもごく一部だろう。

いやだが、ほんとうにいいもんだ。先ほどから私の口からため息がただ漏れ状態だ。
シアワセを逃すため息じゃない。むしろ幸せになれる気分のため息だ。異国の温泉というのも、なかなかいいもんじゃないかと私は思った。
「そういえば、クゥさん」
近づいてきた露華が、私のとなりに腰を下ろしながら尋ねてきた。
「ん、なんだ?」
「クゥさんって、何歳なんですか?」
人差し指を立てて、グイッと真剣な顔を近づけてそう言った。その際、きちんとタオルで前を隠している辺りが露華らしいが、隠しきれない大きさと形がなんとも素晴しい。
こんなことを考えていれば、普段なら露華はすかさず、間髪入れず私を性し間違えた制しようとするのだろうが、眼鏡が無いからな、きっとよく見えていないんだろう。

しかし、水滴というのはこうも美しく人の体を、人肌を魅せるものなのか。正直エロイ。
アインに勝るとも劣らないくらいな、これは。ただ、流石にこうも顔が近いと目線をずらせば露華にばれるので、鑑賞は此処までしか出来ない。なにか間違いが置きそうなくらい顔が近い。やわらかそう。
というか、かなりぶっちゃけた事を聞くもんだな。普通女同士でもこんな失礼な質問はしないぞ。まぁ私だからいいが。

お湯から上がろうとした真琴も「お、私も知りたいそれ。」と聞きつけて、再び湯に浸かる。露華とは反対側の、私の右隣に座った。両手に花、いや真琴はもう二年は必要だな。確かに湯気や水滴効果で、真琴の体も十分そそられるが、やはりあと二年欲しいところだ。そうすれば琴杷並に成長するだろう。

さて、そんなことはいいとしてどう答えたものか。
うふふー、私永遠の18さーい。
とかきゃぴきゃぴな感じで言ってもいいのだが、それは私よりはアインとあいつが言う方が似合う気がするし可愛いし。訂正、よく考えたら気持ち悪いな。アインにもやらせないことにしよう。
まぁかといって、バカ正直に云歳といっても、これはこれで冗談にならない。いや、かえってこれのほうが冗談として取れるのかもしれないが。
「そうだなぁ。何歳だと思う?」
少しだけセクシーポーズ。
「じゃぁ、その無駄に綺麗でエロイ体に40歳。」
「スタイルいいし、体も締まってるし、綺麗だから、24歳くらいでしょうか?」
前者は真琴。後者は露華。
どちらをとるといったら、問答無用で後者だろう。だが。
「真琴、流石に40歳は無いんじゃないか?」
するりと伸ばした私の手は、すかさず真琴のあんなところやこんなところに伸びて弄り始める。勿論外からじゃ温泉の色のおかげで影しか見えないし、その影ですら、ただじゃれあってるようにしか見えない。
いやじゃれあってる=あれやこれって時代になったからそれは関係ないのか。むしろ相乗効果だな。

というか真琴、意外といろんな場所がぷにぷにしてるな。でも肝心の胸が乏しい。だが突起物に触れるとびくってなる辺り、感度は良好のようだ。
なんて吟味している私は恐らく変態だろう。ロリコンシスコンおっぱいにあんなことやこんあことなどそのたもろもろ、自覚はある。
そうこうしていると、真琴は直ぐに顔を赤くして、きゃーきゃー言いながら私から離れようとするが、残念ながら私の寝技は108式まであるのだ。逃れることは出来んよ。
と、いつか読んだ何かの本をパクって表現してみる。
「あっちょっにゃっんっごっごめんっごめんなさいーーーー!!」
「謝ったっていくまで許さんっ!」
「いくって、ちょ、クゥさん!?」
絡み合ってる私たちの後ろで、露華が手のひらを合わせて合掌している。『マコ、どんまい』といった感じだろう。
あまつさえ、四神らも私たちを見て、あきらめたような顔をしていた。主人が(貞操的な意味で)ピンチなのに、私は薄情な奴らといわず、彼らに『空気読んでありがとうあと真琴かわいいよ』と感謝を述べたい気分だ。
真琴はそれを見て「露華ー!!たすけてー!!にゃー!!あんたらうらぎったんぁー!!んー!!」と半泣きで叫んでいた。いや助けを求めていた。元凶は私。

蒼い温泉と一緒に、笑い声が撥ねる。貸切のスパには私たち以外に誰もいなければ、迷惑もかかることも無い。
白状しよう。
こうしていると、自分が何をしているのか考えなくてすむ。わざわざ人に紛れて人紛いのことをして、人を楽しんでいる私がそこに存在できる。
まぁあと何年、私がこの子らの世話を焼けるかなど考えも出来ないのだがな。もしかしたら直ぐ終わるかもしれないし、この子らが人として到達する終点まで付き合うのかもしれない。いや、そうならないかもしれないなんて過程も、予測も予定も、幾らでも建てることができるのだ。
更に、それを無かったことにも出来る。そんな願ったり叶ったりのことを実現できる『災害』も、私は持ち合わせている。けれども、しない。楽しみが減る。今が楽しい。

ということで、今日はちょっと、趣向を変えて楽しむとしよう。たまには無い胸もいいものだ。ただし、真琴がのぼせない程度で。
どうせ、恐らく後数十分くらいだろうしな、例の魔女相手に協会が打って出るのは。
もしかしたらもう既に手を打っているかもしれんが、まぁそれでも、想定の範囲内だ。むしろ、そうであってほしい。
今回の目的は、魔女だけではないのだからな。






ツギ