//おかしな少年と神様の少女//

//二匹の兎//




08.










まだ(地元の)其の辺のゴロツキ相手をぶちのめしている方が、まだ優しい。
なぜなら、今日の相手はサブマシンガンやら拳銃やら、あまり綺麗な世界ではお目にかかれない鉄製で一番簡単に天国か地獄に召すことの出来る、世界の大発明といってもいい代物を抱えているからだ。

どこかの裏路地の日陰。
季節的にもまだ五月だし、もういつの間にか午後の六時を回っていた。湿り気も帯びている地面の石畳は相当冷たいだろうな。かといって、そこで倒れている黒いローブを着込んだオッサン二人の安否なんて気にも留めない。腰につけてたチェーンを振り回して顔面に直撃させたから、当分は起きないだろうとたかをくくる。
問答無用でガキに銃を突きつけて来たヤツらだ。殺しても文句は無いだろ。なぁ。

黒ローブのおっさん一人の持ち物は、黒塗りのサブマシンガンと、身分証明書らしきもの、それとケータイ。日本ではないデザインのものだ。まぁ当たり前か。
「本当に、時代は変わったのぅ。」
お前ガキだろう。と口にしないで思った。
ガキの体はまだ震えていて、ぎゅっと抱きついている俺の左手から小刻みに心臓の鼓動と体の震えが伝わる。

気分的に悪ふざけをしてみたくなった。なんせ生きるか死ぬかの状況なんてこのかた遭遇したことが無いからな。正直参っている。きっとガキも。
「お前の時代にはまだ鎧と盾で身を護ってたってか?」
「それと魔術じゃ。」
何の疑い用も無くそれを口にする。いい加減、現実逃避はやめたいところなのだが、そうもいってられないのかもしれない。
「だがこのような野蛮な代物に頼るように為っては、おそらくわしを閉じ込めていた教会も時代にはついてこれんのじゃろうな。」
違うだろう。時代だからこうなってんだろうと思う。
あくまで俺の視点で言うモノだから、魔法やら魔術やらのオカルトは専門外だが。

「・・・静真、といったか。悪いが、ワシをおぶってはくれんか?」
ガキがそう云うと、冷たい石畳の上にペタンと座り込んでしまった。体の震えも、さっきより強く為っている。寒いのと、怖いのと、きっとどっちもだろう。
「大魔女なんじゃねーのか。これくらいで腰ぬかしてんじゃねーよ。」
「うる、さいわ。いいからおぶれ。はよ。たのむ。」
あくまでも威勢を張るつもりなのだろうが、声も震えて、強がっているのが丸解りだ。
小さくため息をついて、俺はガキの前に屈んだ。
「ほら。肩に手のせろ。」
そう促して、ガキは俺の背中に寄りかかる。そのまま立ち上がって、とりあえず道なりに歩き始める。抱えたときも思ったが、軽い。てか、軽すぎるんじゃないか。まだ俺の荷物の方が重い。
ふと背中から、弱々しい声で「すまぬ」とガキの声がした。

 

二時間くらい前、ガキが今まさに自分の名前を言おうとしたときだ。
高周波のようなキィンとした強い耳鳴りが一瞬したと思ったら、冷蔵庫のモーターの駆動音や、外から聞こえる車の音、静かな音が根こそぎ消えた。自分自身の心臓の音すら消えたと錯覚を覚えるほどの静寂だ。
体が瞬間的に『これはまずい』と直感する。
「おいガキ」
つい声をこわばってしまったが、その声も静かに消えていく気がした。
「人避け、おそらく、ワシらがいるこの建物を中心にじゃろう。入ってきたな。恐らく今の術式で影響を受けてないのはわしらだけじゃ。」
ワシがいるからな、とため息をつくようにガキは言う。

あまり信じたくない事態だが、このガキが大体何を言っているのかが解った。
さっきの奴らみたいなのが来たのだろう。一人じゃないだろうな、多分それなりに人数を引き連れてきたはずだ。こんどこそこのガキを捕まえる気なのなら。
此処は5階で、非常口までの距離もある。長い廊下を突っ切るにしても、エレベーター、階段のどちらも押さえられてるとしても、どうにもならないだろう。
ということは、八方塞か。
だが、その割りに俺も、ガキも、何故か冷静だった。
「おいガキ」
「言われずとも」
俺の言葉がガキによってさえぎられる。云いたいことが伝わったとの手ごたえを感じた。返事とともに、ガキがベットから立ち上がり扉に向かってすたすたと歩き始め、腰に手を当てて、扉の前に仁王立ちになる。
「コレはヤツの受け売りじゃがな、結界の中にもう一つ結界と創れば済む話であろう?」
結界、というのは多分さっき言ってた『人避け』というものことだろうか。
ガキが左手を腰から扉に移すと、一瞬風圧のようなものを感じた。だが、さっきほど気味の悪いものじゃない。消えていた音が再び耳に届く。違和感も無い。
扉から手を離し、再び腰に手を当てて「うむ」とやりきったような声を上げる。
「おい、何したんだ?」
見当はついてるが。
「だから、人避けの中にまた人避けを創ったんじゃ。ついでに、ずっと向こうの部屋に注目を集めるようにしたのじゃ。」
こっちを振り返って、えへんと胸を張った。
「てか、相手さんはこっちの場所がわかってんのか?」
「このやり口は以前も見ている。術が効いていない場所を見つける術も、同時に放ってるのじゃろう。」
するとドタドタと走る足音が、いくつか部屋の前を過ぎ去り、俺はその音を平常心で見送った。意外と、いやここぞとばかりに冷静だな俺。もっと焦るとかしないのだろうか。と思った。

まぁ場所はわかっていただろうな。でないと的確に此処に来れるはずが無い。
「全く、魔術は日々の進歩が基本であろうに。同じものに延々と浸かってどうする。」
ガキがぶつくさと、多少嘆くように言う。
そうは云うが、もしその場所を見つけることの出来る術ってのが、リアルタイムのものだったらどうしたんだろうか。常に居場所を特定することができ、結果が常にフィードバックされて伝わる。それなら一瞬で場所が移ったって事すらばれんだろう。
まぁ終わったことだし、果たしてこいつがそこまで考えていたのか、もしくはそれも見越してのこの所業なのかは、聞くつもりも無い。
「まぁ、いいか。」
「ん、何か言ったか?」
なぜなら聞いても無駄だろうだから。俺は「いや」と返事する。
だが、これじゃ長居もできそうにない。一人ならまだしも、修学旅行だ。他の奴らに迷惑かけるのは、実のところあまりいい気分じゃない。

「それなら、いっそのこと先に帰るか。」
「帰るって、どこにじゃ?」
「日本。」
妙案だ。けども瞬間、『女児誘拐拉致』って単語が脳裏をよぎったが、この際気にしないことにした。

 

誤算だったのは、便がもうあと一本しか残ってなくて、あと2時間しかないということ、このガキを連れ出すのに、こういうオッサンらがわんさかいること、ということだ。
これは誤算じゃない、今現在の問題だ。
さっきまでの威勢は一体どこに行ったんだか。ガキは俺の背中で震え上がっている。
無理も無いのかも知れねーけど、さっきのオッサンらの会話に「キル」なんて単語が飛び交っていたのが耳に入ったせいだろう。さっきまでどうにか虚勢は張っていたものの、今じゃコレだ。
だが、時間が無い。
とりあえず移動しねーとと思い、大通りに出ようとした、その時だった。

前方20メートル先、音も無く、目の前に黒いローブが急に出現した。『地面から浮かび上がるように出現した』のだ。

まるで液状化した地面から出現したそれは、よく見ると地面に足が着いていない。背はさっきのおっさん達と同じくらいだが、見た感じがまるで違う。
ローブの装飾も違うし、かぶったフードの向こうに顔が見えない。大通りからの店や車の明かりを背に受けても、黒いローブ自体が影のようで、その異様な黒さは異質だった。
そこに人の形のした穴があるように錯覚する。存在がどこか欠如している感覚が、そいつから感じ取れる気がした。

結論、アレは人じゃない。人間じゃない。

空気が冷たく、ズンと冷たくなる。本能的に俺は身構え、直感した。
これはヤバイ。対峙したら確実に負ける。いや、死ぬ。

そう思ったら、さっきまでの銃などが、まだおもちゃのように感じられた。
耳に聞こえるのが自分の心拍音だけで、周りの音が何故か聞こえない。心拍音が大きいのか、黒いローブのせいなのか、多分どっちもだ。
距離をとろうと後ろを振り向くと、もう一匹の黒いローブがオレンジ色の街頭に照らされてそこに立っていた。同じ特徴の黒いローブだ。
一本道だ。挟まれた。逃げ場が無い。
俺の背筋が凍りつく感じが嫌なくらい感じ取れた。

「おいガ」キ!、と背中で震えるガキに向かって言い放つ前に、前方と後方の黒いローブが同時にこちらに向かって動き出す。
地面を蹴ったようなそぶりも無い、直立のまま猛スピードでこちらに寄ってくる。ただその黒いローブだけが揺れて、まるでホラー映画か何かに出る悪霊のように思えた。
本当に、ホラーじゃねぇんだから、と思う暇と、これは現実なのかという再認識と、次の瞬間どうなるのかという予見も出来た。頭が良く回る。
だが、人が一番頭が回るのは、死に際だ。走馬灯のような現象がソレだと残念ながら俺は知っている。

二体の黒いローブは、右手の裾から黒いもやを発生し、それを長剣のようなものに形成する。
刀身の長い黒い両刃の十字剣。
あういうのは叩きつけてぶった切るという仕様に為っているらしいのだが、どう考えてもあの鋭さじゃ、力なんてそんなにいらないように思えて仕方が無い。
それを、二体が同時に行い、俺とガキの両方に向けて振りかぶってきたのだ。
「避けれッ・・・」まずい、死ぬ。

「人形風情が。」

背中の震える体から、今までコイツから聞いたことの無い、殺意の篭った声。
勿論ガキの声だだけど、別の誰かのように、錯覚を覚えた。
そのガキがそれとぶつぶつと聞き取れない程度の声の大きさで、何か呪文のようなものを高速で、黒いローブが剣を振りかぶっておろすまでの瞬間で呟いていたと思ったら、いきなり足元からぶわっと駆け上がるように、白い色が広がった。
黒いローブの剣閃は音も無く弾かれて、白い色に黒ローブが吹き飛ばされる。白い空間のなかに俺とガキの体は完全に包まるその寸前、飛ばされた黒ローブが、影に溶けるように消えるのを確認できた。

あまりにもその白い色が眩しくて、眼が自然と細くなる。
両手はガキの体を支えているのに埋まっていて、光をさえぎるものが無い。それに、足が宙に浮いている感覚。内臓が体の中で浮いて、嫌な違和感が体を駆け巡る。
高いところから落ちたときと同じような感じだ。
けどそれも一瞬だった。
直ぐに白い世界は、夜と街の明かりのある世界に戻った。
光から闇へ、俺の目が急激な変化についてこれていない。しかし、さっきと場所が違うことがわかった。肌に冷たい風を感じて、後ろの髪が風になびく。
だんだんと慣れてきた目が捉えたのは、見覚えのある小さくなった大時計や建物の屋根。そう、屋根だ。もう信じられないじゃ済まされない。

俺らの体が空中に浮いていた。それもかなりの高度だ。息が出来ているのすらおかしい。
しかもあれはパンフレットで見たものだ。
あの建物は、あの小さく見える、大英博物館は、リポンには無い。
「ロンドン・・・?」
イギリスの首都、ロンドンだ。間違いない。
どういうことだ。俺とガキはさっきまで200キロ離れたリポンにいたはずだ。それに空中にいて、落ちてるような感覚も無い。
ワープに空中浮遊。
生身でこんなことなんて出来るわけが無い。浮遊ならまだしも、ワープなんて存在すらしない。それこそ魔法なんてもんじゃねーと・・・。

そこではっとして、ガキに問いかける。
「・・・おい、ガキ、何した」
背中に負ぶったままのガキにそう尋ねたら、ガキの震えと鼓動はさっきよりも酷く為っていた。肩で息をしていて、熱があるのが背中越しに明確に解る。
さっきの白いアレのせいか?
それとも空中浮遊?
原因は確実にこのガキだ。もう信じざる終えない。もう不可解現象に否定的に為ってもられない。そうじゃないと、俺が死ぬ。いろんな意味で。

つい声を荒げてガキを呼ぶ。
今空中とか、落ちて死ぬとか、考えていない俺がいた。
だが、呼んで帰ってきたのはガキの返事ではなく、地上から高速の速さで光る直線の筋だ。
髣髴させたのは、よくビームとかレーザーとかいうアレだ。光の速さで進む、さえぎるものがあったり、反射でもさせないかぎり、回避不能のそれが、何本も俺に向かって飛んできた。
光の速さってのは認識できないが、不思議なことに、光にしては遅い。空間に見た目殺傷力がありそうな細い光の塊が、俺の目でも認識できるスピードで飛んできているのだ。
刺さったらどうなるかなんて想像したくないが、恐らく出血多量で死ぬ。
もしくはSFみたいに体が焼けて消滅するか、オカルトのように何かしら消滅するか。そんな事を思った。
しかし、それは俺の目の前で弾けるように霧散する。俺とガキの周りにバリアのようなものがあるように思えた。
弾幕と呼ぶべき光の矢は、俺らに当たることなく霧散して消える。
コレもガキのやったことなのか・・・?

ガキの方に意識をやる。同時に、弾幕が停止したと思ったのもつかの間、異常事態は間髪いれずに襲い掛かる。
空中にいた体が、いきなり強い力で地面に引っ張られるように落ち始めた。普通の落下じゃない。まるで重力が強くなったかのようにグングン引き寄せられる。加速度とか物理的な法則を無視していた。
空中を落下するも風圧が無い。こんだけ速いと先ずショック死するんじゃねーか、普通。だが内臓が程よく引っ張られて、嘔吐感が駆け巡る程度だった。
俺のそんな無意味な思考はそこで中断する。なぜなら、地面が見えても高速落下はとまらないからだ。いやまぁそうだよな。

こんどこそまずい、と感じたのは体が地面に直撃してミンチになる寸前。
だけども、またガキが何か高速で呟いたと思ったら、不可解な体の落下は反動も無く急停止し、嘔吐感も解消された。地面から1メートル程の高さで留まり、俺はガキをおぶったまま、ライトアップされた白い壁が映える、城のような建物に着地した。数十秒ぶりの地面だ。やっぱ人は地面で生きるべきだ。

いや、そんな思考どうでもいい。心底どうでもいい。
それよりも、俺の懸案事項であるガキの体はさっきよりも状態が酷く為っていた。
「おいガキ、大丈夫か、おい。」
無意識的に声が強く為っているのも気にせず、俺がガキに叱る様に言った。
「違う、違うのじゃ静真・・・ワシはな・・・」
細々と震える声でガキが言い切る前に、いくつかの声と不気味な眼光が俺らを捕らえる。
いかにも宗教くさい服を着た人間や、ガタイのいい等身の銀色が貴重の服を着た強面達が持つ剣や、その身長の二倍はあるように見える槍を構えた人間、黒いローブをきた人間も数人いて、さっきの黒いローブも何体も確認できる。
騎士や術師、司教に眷属。
何処の喜劇だこりゃ。今からシェイクスピアか、それともリアルドラクエでも始める気でもいるかこいつらは。作戦名はなんだ、いのちがんがんいこうぜか?

けれども、俺の嫌な予見が正しいとするのなら、殺される。死ぬ。
自分で言うのもアレだが、ある程度喧嘩慣れしているとしても、刃渡り20センチの安っぽいナイフとは違う。
簡単に人体を袈裟切りにして真っ二つに出来るほどの大きさの刃物だ。相手がアレじゃ、さっきのオッサンら二人なら兎も角、ズボンの飾りのチェーン振り回してどうにかなる相手じゃない。
「話し合いくらいしてもいいだろうが・・・」
ジリリと後ずさりながら云うが、殺気立っている前衛の騎士と、人間じゃないっぽい黒いローブ相手に日本語が通じるとは思えない。まだそこの騎士さんの方が心優しいと思うがな。多少。
気づくのが遅いかもしれないが、いや当も昔に気づいてたが、ただに思いたくなかっただけなんだが、コイツら、このガキ捕まえる気なんぞさらさら無い。

「逃げられたから、消す。そこは昔から変わらんな。」

まただ。殺意の篭った、似合わないガキの声。しかもやけに声の抑揚がある。
「確かに、迷路も避けも、昔よりはいいものに為っていたが、甘くみるな人間。その遣い魔もまだまだ未完成じゃ。ただの人形程度じゃ。数百年前のヤツが生んでいた軍隊のほうがまだ実用性はあったぞ?天使の矢も媒体はレプリカじゃな。どうせその名を模っただけの虚構の天使など、恐るるに足らんわ。本当の天使ならワシごときに防げる代物ではない。じゃが、磔の意を用いたあれはなかなか利いたわ。キリストの態は相手にしずらいからの。落とした場所を塔にしたのも、大罪人としての型に無理やり押し込めようとしたつもりでか?残念じゃが、ワシは咎人でもなければ罪人でもないぞ。ただの魔女じゃ。」

まるで楽しんでいるような喋り方。
ガキの体の震えがぴたりと止まる。すると、同時に、前方の集団が構えて襲い掛かってきた。
どうすれば、と必死で考える俺の耳元に、ガキは静かにささやく。

「すまぬ静真。ワシは怖いのではないのだ。」

震えがだんだんと、笑いに変わっていく。
怖いから、殺されるから震えていたのではない。ただ抑えるのに必死だっただけなのだ。
悪寒が次第に、恐怖に変わる。

あくまで、楽しむように、本当に、悪魔で、笑うように。

「ただただ、こやつ等相手に、暴れたいだけなのじゃ。殺したいのじゃ」

魔女のように、口元を吊り上げ、背中のガキはそう告げた。

瞬間いきなり体が数メートル吹きとんだ。
辛うじて受身を取って直ぐ体を起こす。息がしずらい。
いや、俺はまだましだ。本来俺が今建っている場所には、さっきまでこいつを殺そうとした輩がいたはずなのだが、黒いローブは吹き飛ぶことすら許されずに、黒い粉のように粒子分解されるように消滅し、ガタイのいい騎士なんかは、遥か後ろに見える川に落ちていた。

ハッと振り返ると、ガキの方から見えない力のようなものが、周りの空間を押し付けているように思えた。俺同様の特徴的な長い銀色の髪は中にぶわっと舞、ガキ自信の体すら浮いていた。
気づいたことが有る。ガキの体が徐々に大きく、いや、”成長している”。
髪は更に長くなり、女性らしい体のラインが徐々に伺えるようになる。俺の服も黒いローブ同様に消滅し、裸になったガキ、いや、あいつの足元から胸元にかけて黒いゴシック調の黒いドレスを身に纏われる。あの幼女体系から思えないほどのボンキュッボン(他にいい表現が思いつかねぇ)だ。

所謂変身シーンというヤツか。やけに胸が揺れたりしている気がする。まぁそこはいい。
なぜならば、そんな冗談言ってる暇もないからだ。思いついただけで止まってよかった。
まるで雰囲気が違う。つい数時間前のガキらしい顔つきはもうなく、静かに開かれた赤い目には、自然と体が震える。

 

「古来より伝わりし、天魔の始祖の伝えを身に刻みし崇高なる魔女。神をも恐れぬ姿は神すらも恐れ慄かせた我が身に宿されし名は、

魔女、ヤウナ。ヤウナ・アンビギューデイド。

 

ざっと100年ぶりの名乗りじゃ。跪け下種な愚民共が、喜べ、ワシが鏖してやるよ。」

 

仕草や物言いがまるで古臭いの西洋の女王みたいだ。それが素直な感想だ。
口元を吊り上げ、奇妙にあざ笑うように名乗りを上げて、ガキは魔女になった。
俺はそれを、ケツをついてそれを唖然とした顔で見ているしか出来なかった。










ツギ