//おかしな少年と神様の少女//

//二匹の兎//




09.










ちゃーんと正門から入ったのだが、どういうわけか、中の結界が見事にねじれているのがわかった。
シロのものとは全然違うタチの結界だけど、何処であろうとどの時代であろうと『何かから護る』っていう意味合いは不変のものらしい。

けれど、この・・・コレなんて読むんだろう、リポン?リッポンかな?どっちだろう。
「コレってなんて読めば?」
「・・・リッポン・・・かな・・・。」
僕よりも先に門を開けて中に立ち入っていたアインさんが、小さな背丈で自分の何倍も有る高さの天井を仰ぎ見ながら、僕の回答の答えを教えてくれる。というか子供バージョンだと口調が変わるんだ。さっきよりも非常におとなしい感じがする。

まぁ生憎、僕には語学力がそんなに無いのだ。日本語とシロの字が読めて理解できればそれでいいし。
そんな僕と違って、クゥさん曰く「アイン頭はいいから」ということらしい。どこか抜けていたり、シロとはまた違うベクトルで天然っぽい雰囲気と見た目からは思いつかない。あまり人を見かけで判断しちゃいけないね、やっぱり。

さてさて、閑話休題である。
ぱっと見だし、シロほど詳しくもないから断言は出来ないけども、ウチの神社同様、表から隠すための結界なんだろう。特定の条件で無い限り、本質である裏側に入ることは出来ないようなイメージ。
特徴的だと思ったのが時間を使った結界だということろだ。数秒前の状態に逐一巻きもどさせて、常に表であるように見せかける。裏に入ったという事実を含めた時間を超高速で上書きしているから、普通の人はそれに気づかない。僕はあまり得意じゃないけど、パソコンとかケータイとか、なんかあの辺の科学的な思考だなぁと感じた。かっこよく言うとアルゴリズム的な。
時間結界のねじれイコール時間軸のねじれって考えてもいいはずなんじゃないかな。その結界が見事にねじれたせいで、見るからに現代に生きる人じゃなくて、明らかに数世紀前のもうお亡くなりに為られたであろう方々が、教会内を歩いてたり、両手を合わせて祈っていたりしているのだろう。
多分。
そう、たぶん。
さっきも告白したとおり、僕はシロほどこういう代物に詳しくない。だから見た感じの感想しかいえないのだ。
現に一般参拝客の皆様方や観光客の方々はこの現象に気づいていない。フツーに中を見回ったり、きっとあまりよろしくない行為なのだろうけども、カメラやケータイで写真を撮ったりする人もちらほら見える。まぁ、ちょっと面白いのが、今の人たちと昔の人たちが、無意識的にぶつからない様に互いに避けているのだ。お互いに認識しあっていないのに、ちょっと不思議な光景だ。
とまぁ、僕のさっきの解釈じゃ解明しきれないことも起きてるわけで、結局のところ体のいいご都合主義なのだろう。僕の知ったこっちゃ無い。
けど、この二つの集団から僕とアインさんは見えているのだろうか、ちょっと気になる。見えないほうが好都合だけど。これからすることについてで言えば。

アインさんが、関係者以外立ち入り禁止を意味している太く赤いロープをフックから下ろし、聞き取れるか否かの声量で「こっち」といった。ねじれの影響がもっと強く現れている方向だ。
僕はアインさんの後を追うように、人を避けてその通路に向かう。
通路の入り口である扉を開けて、また別の世界に入り込む。扉を閉めると、さっきまでいた向こう側の人声が全く聞こえなく為っていた。極めて静寂だ。
「多分・・・こっち・・・」
そう云うと、小さな歩幅でアインさんが歩き出す。『てとてと』という効果音が似合いそうだ。
僕もそれについていく。事実、その方向に向かうにつれ、音は更に静寂に、結界は更に色濃くなる。まぁねじれてんですけども。

ふと思ったことがまた一つ。そもそもアインさんは一体何を感じ取って向こうに向かっているのだろうか。僕のように結界とか、空間的とか、うまくいえないけれども、個人を特定できるある程度の存在の大きさとか、そう云うんじゃないような気がする。
例の浄点の子とも違うだろうし、もしかしたらそれと同じくらい精密で正確だし。謎だ。
ふとそんな事を頭の片隅で考えながら歩いていると、壁に綺麗な丸い風穴があいていた。向こう側にはほの暗くなった町並みが見える。あぁなるほど、結界が歪んだのはこの穴のせいか。
人為的、というべきか、なんというか。多分爆弾をつかっても、こんなに穴のあけられた壁の断面が、スパッと気分が良くなるくらい綺麗にならないだろう。例えるならまぁ、何かしら鋭利な刃物でくり貫いたような感じだ。だがこれは、見るからにそれ以外の何かの力、強いて云うなら、僕のいる世界のような力が働いた結果だ。オカルト的な。
そうでなければ、開いた穴から裏の世界が逆流する。はず。だと思う。
「魔女ねぇ・・・」
ふとその単語を思い出した。
魔女、といったら、魔法だ。
それこそソロモンとか、黄金の夜明けとか、確かそんな本を昔読んだ記憶があるけれども、実際はもっと生々しいのかもしれないし、物語でよくあるようにメルヘンチックなのかもしれない。
なんせ本物の魔法とやらには出くわしたことが無い。似てはいるけど、シロや僕なんかの類とは一風変わっているしね。
いろんなことを考察できそうだけど、どこかの館主さんに尋ねた方がきっと解りやすいはずだ。とりあえず今は置いておいて、今は目下の事柄に腰を入れることにする。

少し行くと、アインさんが地下に続く階段に前で待っていた。
「きっと、ここ。」
自信の青い目で僕の目を見ながら、違和感たっぷりの階段の行く先を指す。
・・・ちょっと表現がおかしいかな。『違和感たっぷりの空間に向かう階段を指している』、か。
信仰対象であり存在自体に意味の有る大聖堂で、わざわざ中にまで結界まで組んであって、ついでに見た目も感じも妖しい地下通路。
「まぁ、往ってみますか。」
一見は百聞に勝るとも云う。その割りに心の目で見ることも大事だという人もいるけど、まぁそれはいいとして、実際中がどうなってるのかは興味がある。
アインさんが僕より先に下りようとしたのを制し、今度は僕が前に立って先行する。
下からは湿気交じりにひんやりとした風が立ち上ってくる。排気が出来ているという証拠だ。人がいる、またはいた、とも判断できる。まぁ例外はあるけれども。
ただ、湿気が服ごしに体にまとわりつくようで、なんか気持ち悪い。例によって、現在女性用の下着を身に着けているために、余計、なんかアレだ。気持ち悪い。
まあ仕方ないか、このナリのほうが『真っ黒』をセーブしやすいし。

手をついている壁の感触は多少湿っている。ただ、次第に見えてきたろうそくの明かりが、壁の古さを僕に示す。随分と昔から有るもののようだ。
不思議なことに、と文頭につけるのも今更かもしれないけども、虫の一匹もいやしない。蜘蛛の巣すらない。ある程度人の出入りがあるのか、それともそう云う場所だったのか。良くあるパターンなら、多分後者だ。
小さいものほど、感覚が鋭い。そのために存在の大きなものには数でたかっても寄り付かないものだ。自分の身を守るためにそなえられた自然の摂理とかいうヤツだ。人間はそれにかなり疎い。シロが云ってた。

しばらくすると、アインさんが階段の終わりで立ち止まって振り向いた。淡い光で照らされた光が特徴的な青白い髪に反射して、ふんわりと舞う髪が一本一本光っているように錯覚した。
「・・・ここ」
呟くようにアインさんは云った。
眼まで輝いているように見えた。冷ややかな恐れも含めて魅せられる僕がいた。いやシロ一筋だから大丈夫だよ、シロ。
・・・というか、アインさん僕の後ろにいなかった?・・・まぁいいや。気にしないことにしよう。

目線を上げると、そこには教室二つ分くらいの空間が広がっていた。
あれほどこみ上げてきた湿気も無く、外よりも暖かい。赤かったであろう絨毯は多少色あせているが、どこかの王宮の王様がいる、あの椅子とか置いてありそうな場所を髣髴させた。
ずっと奥に、豪華な装飾がされたベットが見える。天井とカーテンつきだ。あけられていたカーテンの向こうには誰もいなかったが、その枕元には数々の気味の悪い像や飾りなどなど、見るからにオカルトっぽいものがあった。それぞれが異様な雰囲気と存在感を放っている。しかも随分と強力な。
階段を下りてくるまでは気づかなかった。つまり、ここもまた別の世界、別の結界の中だということらしい。
あぁなるほど、爺ちゃんが絡んでるってこういうことか。こんな面倒な結界の構造なんてシロか爺ちゃんくらいしかやらないだろう。
ちなみに結界の指標として、性能ならシロが。構造特性なら爺ちゃんが勝っている。
つっても、多分相当前の話だろう。僕が起きるずっともっと前の話だね。てことで気にしないことにする。それよりも今は、大聖堂の壁に大穴を明けた犯人を捜すのが重要事項だ。
シーツに手を載せる。まだ暖かい、といいたかったがそんなことはなかった。此処を出てもう随分と時間がたっているってことだろう。

さて、ここで久々に神様にご登場してもらおうじゃないか。
ポケットに手を突っ込んで例のお札を出す。えぇっと、確か此処をなぞれば映像つきで通話できるはず・・・お、きた。
ブォンと音を立てて、手のひら二つ分くらいの大きさの正方形が浮かび上がる。窓枠の右上には通話相手の名前、右下には今の時間、本当の電話みたいに音がなり、コール中の画面は受話器がカクカクと傾いて動いている。シロ曰く、異様に近代的っぽい仕様なのはクゥさんのアレンジらしいけど、よく知らない。僕、若干機械音痴だから。

受話器のマークが消え、画面にシロの顔が映る。
「お、クロだ。すごいクロが写ってるー」
「わぁーほんとだー。くろさんだー。やっほー」「え、なになに、おーすげぇくろにーちゃんじゃんか!」
「あ、ちょっと静かに、ちぃ起きちゃうから」
「あ、ごめんなさいシロさん」「ワリィシロねーちゃん」
若干二名、聞き覚えのある声が聞こえた。画面には映ってないけど、どうやらいつもの双子が遊びに来てるらしい。というかこの時間態ってことは、また晩飯たかりに着たのか。まぁいいけど。
「やっほークロー。元気ー?」
ちぃが寝てるから、いつもと違って多少声量を落としてシロが云った。
僕はもちろん「元気元気ー」と返す。
「あーちんは?一緒じゃないの?手出してないよね?」
おーぅ、さらっと殺意。
「一緒にいるよ。手も出してないし、僕シロ一筋だから大丈夫」
「私もクロひとすじだよーん。あ、今日ちぃがよちよちで壁から壁まで歩いたの。」
おぉまじすか。そんな世紀の瞬間に立ち会えないとかなんて不幸な僕。
「ということで早く帰ってきてにゃんにゃんするのだ」
「娘をえさにしてそんなこというなっての。だがにゃんにゃんはする」
断言する。ええ断言しますとも。
「にゃんにゃんで思い出しけど、ねぇシロ、僕そろそろ普通の体に戻っていい?」
「えー、だめ。」
だめなんだ。
「だってクロったらきょぬーなんだもん。私よりきょぬーなんだもん。ずるいずるいー。」
いや、シロが貧乳なだけであってですね奥さん。云ったら大変なことになるからその事実は言いませんけども。
「けどクロ、いま女の子用のパンツはいてるよね?」
ニヤニヤしながらシロが云うけども、僕はそれにきりっとした表情(いつもの半無表情な顔にキリッていう効果音がついただけ)で返答する。
「実はちゃんと僕のパンツも持参しているのだ」
「にゃ、にゃにー」
「あ、シロ、そこはにゃにーじゃなくて、ほら」
「あ、そだった。もっかいやってクロ」
「おっけー。げふん。じてぇ・・・」
「あー噛んだーくろかわいいー」
「ごめん、もう一回。もう一回だけ」
「えーーーー、可愛いから許すっ」
「許されたっ。よーし、げふん。実はちゃんと僕のパンツも持参しているのだー」
「な、なんだってー。じゃぁそれを今からこっちへ送るんだー。今はいてるのだっておくるんだー」
「えーーー、って、それノーパンじゃないか。スースーする。」
「だってそれ実は私のだし。」
「・・・・・・・・・・・ぁ」
「あ、クロ顔真っ赤。フヒヒヒ。」
「・・・あのねシロ、そう云うこと最初に言っとこうよ・・・というかこんな黒いの持ってたんだ・・・何時の間に・・・」
「ちょっとえっちぃでしょ。前に出かけたときにこっそりとかっておいたのさー。ふはははー。それにクロだってあの時にすけすけのひらひらの下着かって」
「え、ちょ、ちょま、なんでそれ見つけてるんですかシロさん、絶対見つからないと思ってたのにあれ、ねぇ。」
「なーんで私の体にピッタリなのかなー。なーんでっかなー?」
「・・・いや、まぁそりゃぁ・・・にゃんにゃんするためでしょう」
「ということで、これ着て待ってますのでよろしっくー」
ちょっと用事が出来たので、私これにて・・・っておい。おい僕。そうじゃないだろう。それじゃないでしょう。シロとにゃんにゃんはするけど、今はそれどころじゃないでしょう。なんかアインさんが僕の前に立ってあきれ返ってますし。そろそろ本題に移らないと、なんか僕の体裁的に良くない気がする。気がするんだ。
「じゃなくて、ねぇシロ。聞きたいことがあるんだ。」
「ん、なぁにクロ?」
閑話休題。
気を取り直して、僕はシロに尋ねる。

「シロは時間を操ったり出来る?」
「んーそだねー・・・」
少し悩むような顔をして、シロが答えた。
「出来なくはー、ないかなー。けどあまりする気にはなれないね。クゥに怒られるし。あぁけど、クロと何度でもにゃんにゃんするのにつかっても」
「つかわんでいい」
てへ、じゃない。
僕はそこまで落ちぶれてないし僕は正常の50%増しだ。いやなんでもない。
「まぁ」
「そこの結界が時間を弄ったモノだから?」
「うん。」
愛変わらず勘がいい。直球ど真ん中ストライク。溢しようの無い投球だ。
僕の云いたいことをずばっとすりっときゅっとどばばっと言い当てる。
あ、ちなみに、シロの投げたものなら、僕は死んでも捕りに逝くけれども。そのあとにまた前みたいに帰ってくればいいだけの話だ。けどこれ、シロが泣くから却下。死なない程度に全力で必ず捕るのが僕だ。
うーん、今日はやけに閑話休題を使うな僕。頭が好く廻ってくれる。

「でまぁ」
「その結界が二、三個多重になってるから、私ならその結界を作りそうな人を知っているんじゃないかって」
「ということで」
「クロが思っているとおり、それは例の人が昔に組んだものだったわけで」
「だから」
「とりあえずつい先刻までその世界の中に居たであろう魔女っ娘をさがしてみようとおもったんだけど」
「それが」
「完全に手がかりがなくて困っているのだー」
「ということなんです。すごいねシロ、愛変わらずばっちり」
「まぁねーん」
えへへーと鼻を高くして満足する神様。
「あ、ちなみに」
「シロが完全に状況を的中させられるのはなんとなくだったりするわけで」
「まぁけど」
「お札越しに断片的に状況を感じ取っているってのもあって」
「しかも」
「なんとまぁ現在僕とシロはある程度五感を共有しているのであーる」
「ばっちり!」
いぇい。褒められたっぜ。
あくまである程度、ほんのちょっとだ。シロ曰く、神道なんかでいう『神卸』のようなものに近いらしい。
神様の力をほんの少しだけ借りて力を使うというが、僕とシロの場合は、シロが一方的に僕の体を通して除き見てる感じだ。語弊はあるがそんな感じ。勿論セーブして貰ってます。1%くらいに。
この通話用超便利お札も、多少ながら周りの『気』を伝えている。例えるなら蝙蝠とかイルカだ。札から出した気をモノが反射して、ものの位置情報を朧気だが伝えることが出来るらしい。どうも僕には扱える力ではない。さっぱりだ。

そういえば、という言いかたは酷いかもしれないけども、すっかりとアインさんのことを忘れていた。
どこだろうと思ったら、ちゃっかり僕の後ろに居て、僕とシロのキャッキャウフフなやり取りをジト目で見ていた。多少呆れてるようにも思える。僕よりも無表情だから判断が難しいけども。
「・・・・・・らぶらぶ」
ぼそっと呟いた言葉に、ちょっとだけ笑いが含まれているように思えた。
「クロったらからかわれてる」
ぷぷーと笑いながらシロがいう。なんというか、アインさんじゃなくてシロにからかわれている気分だ、いつも通りで。

ただなぁ。ちょっとゆっくりしてもられないみたい。
「クロさん」
「うん、解ってる」
はっと何かに気がついたようにアインさんが顔を上げる。声もさっきまでと違って、少し強く発している気がした。その割りに僕は冷静すぎるのかもしれないけれども。
アインさんが感じ取ったそれに、ほんの少し遅れて僕も捉えることが出来た。
「瞬間で移動したね。」
どうやら向こうにいるシロもそれに気づいたようだ。それほどの動きがあったということだ。

僕が感じたのは、瞬間的な存在の膨張と、その瞬間移動。アインさんは解らないけども、きっとシロは僕越しに感じ取ったはずだ。
お札ワープ並、もしかしたらそれ以上の速さかも。ぱっと消えて、違うところにぱっと出た感じ。距離も結構離れている。
「まだ」
アインさんが云ったすぐ後、発生した『何か』に向かってまた違う何かが衝突している。僕やシロと違う。どっちかっていったら、いつぞやウチの結界に入ってきた少女の使い魔、まだアレに近い感覚。きっとアレが魔力のやり取りっていうヤツなのかもしれない。ぶつかって弾けての繰り替えし。実際の魔術戦ってやつだろう。
「きっと教会ってのが迎撃してるんだと思う。」
「けど、だめ」
僕の識る先を、的確に感じ取るアインさん。呟いたその後に、またその『何か』が膨らんだ。
大きさが異常だ。魔女ってのは皆ああなんだろうか。僕が人のことをいえるアレじゃないけども、ありゃ人の規格外じゃないだろうか。
高確率で『何か』は例の魔女とやらだろうと判断した僕は、その魔女に吹き飛ばされる数々の魔力の塊の他に、違和感を感じた。
魔女に近くにポカンと穴があるように感じた。いや、穴のように思えるだけだ。
「普通の人間だ。魔女の近くに人がいる」
僕がそう云うと、シロが続けて疑問を投げかける。
「誰かと一緒に行動してたってこと?」
「多分、そうだろうね。」
此処から連れ出したのがその人なのか、もしくは魔女自信が自力で抜け出して、外で遭遇した人なのか。
前者なら納得できるのだが、できるのならば後者であって欲しいと僕は思う。
もし前者なら、その普通の人間も、『普通じゃない』可能性があるからだ。
「いってみないと、わからない」
アインさんが僕の目を見ながらそう促す。いつの間にか、ジト目だった目が力強く開かれていた。

百聞は一見にしかず。確か数刻前にもこれ言ったような気がするけども、今回は後手後手に回ってる身としては、目標を追跡するしか手立てが無い。サボったらクゥさんにこっぴどく怒られ・・・いやそれよりもひどいかもしれない。僕が女の子に為っているという意味で、特に。
「てことで、シロ」
「ほいな」
「ちょっといってきます」
「うん、いってらっしゃい、クロ」
さすがシロの笑顔だ。やる気も元気も無表情のまま1000倍増量だ。今ならあんこ入りのパンの人(?)にも勝てそうだ。
お札を仕舞うと、いつの間にかアインさんが大人バージョンに戻っていた。服も朝神社に来たときのものに着替えている。身長も僕より大きくなって、失礼な表現だけども、シロにはない女性的な象徴がでかでかとあった。というか何時着替えたんだろう。
「クロさん」
僕の顔を見て短く云う。表情に「早くいきましょう」と書いているみたいだった。
「あ、ちょっとまって。」
それを無下にするかのごとく、いやそんなつもりなんてさらさら無いけれども、僕はアインさんにそういった。
「ちょと後ろ向いてて。着替えるから。」
アインさんは「?」を浮かべて僕を見る。
「いや流石に、『真っ黒』をセーブ状態で往くのはちょっと危険な気がするんだ。」
少し考えたような表情をして、アインさんの頬が多少赤くそまった。すると彼女は髪と服をふわっとなびかせながら、体を回して背中を向けてくれた。

因みに、さっき僕はパンツ持参してるとシロに告げたけども、実は本当にクロのトランクスを所持してたりするのだ。
だってさ、元に戻ってまで女性用の(しかもシロの黒いえっちぃ)パンツとか、いろいろとまずいでしょう。

いろいろと。

 

・・・・・・おっと鼻血が。






ツギ