//おかしな少年と神様の少女//

//二匹の兎//




12.







『真っ暗』ってのは実はまだ僕自身よくわかってなかったりする。その存在意義は『正直無いに等しい』んだけども、シロが居るからね。おかげさまで対の存在になっているわけです。
食べる、っていえばなんか僕が暴食みたいな感じになっちゃって嫌なんだけども、まぁ簡単に言えば、『何でも食べる』。『何でものみこむ』でもいい。シロを除いて。
飲み込んだ分だけ大きくなって、けど今は僕の力を振るうためのエネルギーとして消費される。全力で出しっぱなしにしても数百年は尽きること無いと思うけど。
まぁということで、『真っ暗』がいままで食ってきたモノの程度を考えると、まさに魔法とかオカルトとか、そう云うのは大好物なんだよね。。
んー、良い例えが見つからないなぁ。本当にこれじゃ僕が暴食みたいじゃないか。
だれかいい例えがあったら僕まで。本当に正直に云うと、こういうの考えるの苦手で。

まぁいいや。閑話休題。
ということで、続きを。

 

僕が舞台から降壇する頃には、魔女が張った結界をさらに覆うほどの結界が張り出された。
いつぞやシロの神社に入り込んだ、あの女の子の仕業だろう。
四神を遣い魔としているのか。だとしたらやっぱり、相当の実力を持っているのだろう。
ただその彼女の隣に居る、僕が今の状態で一番遭遇したくない天災のおかげもあるだろう。ここまで正確に結界を張るには、シロでもないとできないと思ってたんだけど、やっぱりそこはさすが浄点様々と云うべきだろう。これ一応僕なりの嫌味。

ちなみに、僕が足早に舞台から降壇する理由も、正直彼女にあったりする。まぁきっと、彼女は既に僕らのことには気がついているのだろうけど、『視られる』前に終わるから問題ないのだ。
うんまぁたぶん、魔女の行動を制するためのものかな。きっとこれもクゥさんの策だろう。

「ええい、まどろっこしい結界じゃの」
僕が去った壇上で魔女が云いって、腕を前に出す。それに応じて青い炎のうねりが変化し、結界の境界へ勢いよく奔った。
龍の頭が結界にぶつかると、空気が大きく振動する。だが、結界は割れない。
「ん、ヒトの張ったものじゃないの、これは。まさか天使、いや、神でも居るんじゃなかろうな」
と、魔女は笑いながら冗談半分に言葉を吐き、ばつの悪そうな表情になる。
だがどうやら、薄々は気づいているようだった。
「そもそも出来すぎなのじゃ。ワシの手綱が外れ、あまつさえヤツは一体何じゃ。」
魔女が言う「ヤツ」とは、多分僕のことだろう。
「それに、この回りくどくて隙の無いやり口、どこかで・・・」

 

「そー簡単に割れはしないだろうさ。」
館主は舞台から離れた場所に居て、肩までしっかりと温泉に浸かりながら、意識だけは舞台へ向けている。さながら舞台監督だ。
クゥさんはこう云い切れるのも、この結界が『四神』と『浄点』と『シロ』で出来ているからだろう。
西洋の地であるここでは、当然、西洋魔術の方が有利だろう。
それを浄点が根本からひっくり返して、その上に四神の結界を張っている。
更にそれを『シロ』で増幅。
本当に、浄点様々だ。二つの結界を混ぜて増幅なんて、浄点がいないと出来ないだろう。

「で、演出担当のお前は何でこんなところに居るんだ。女性の入浴中に押しかけるなんて、あいつに怒られるぞ。」
「お、見つかっちゃいましたね。というかすごい云われようですね僕。まぁ僕シロ一筋でだから大丈夫です。」
「本当に相変わらずだな、お前も。そもそもまだ最中だろうに、監督の指示通りに動けと総監督は云ってないのか?」
総監督とは勿論、シロのことである。
「もう大丈夫だと思うよー。だいたいあの子が居てクロがいると、多分大変なことになってると思うから。それに役者は揃ってるしね。」
今度は御札からではない。シロがクゥさんの隣に『現れた』。裸で、えぇ、裸で。
「あれシロ、ちぃはもう寝たの?」
「うん。まぁせっかくだし、来ちゃいました。」
例の神社から、所謂ワープしてきたのだ。
相変わらず何でもアリな神様だ。

「てかクロー、私以外の女のヒトの裸見たら怒るよー。」
「大丈夫大丈夫、湯気効果って結構偉大だと僕は思うんだ。というか僕の性別行ったり来たりしてる時点で、それちょっと難しいよ。」
「えー。じゃぁ私の見ればいいのに」
お前らは相変わらずだなぁ、とクゥさん笑いながら横目に云う。
「だが神様、お前がここに来ると、またややこしいことになるんじゃないか?」
クゥさんがそう云うのも、いくらここ一帯の時間が止まってるとはいえ、魔女だけではなくその他大勢にも、シロの存在が知されるのではないかと懸念しているからだろう。
もしまた時間が奔り始めても、一瞬だろうが刹那だろうが、こんな「ありえない」存在が現れると為ると、大問題になるんだろう。
細かく言えば、魔術の土地柄すら、シロ色に染めることにも為りかねない。
まぁ、『浄点』には見つかっているかもしれないけれども。
「そんな簡単に見つからないよー。かくれんぼは得意だしね」
と親指を上に立てる。
その自信はどこから、と聞く必要も無い。シロが大丈夫といえば大丈夫なんだから。
「で、クロが大丈夫なら大丈夫」
「だから僕の心を勝手に読まないの。」
ただでさえシロが裸で直ぐ目の前に居るっていうのに。全く。なんでシロだけじゃなくてクゥさんも居るんだろうk
「なんか今、若干私に対してかなり失礼なこと考えなかったか、黒いの?」
「いいえ気のせいですヨー。」
人を殺せそうな笑顔というのは、この人にこそ当てはまると思う。

 

『ピシ』

 

あら?

ガラスがひび割れた音が大気を震わせた。結界にヒビが入った音だった。これは予想外。
魔女が不敵な笑みを浮かべながら、青い炎の龍頭を撫でる。勢いづいてきたのか、さらにその後ろから、何頭もの青い炎が伸びて、壁にぶつかっていく。
「おい演出、ヒビが入ったじゃないか。どうする?」
「どうするって云われましても、そー簡単に割れないんじゃないんですか?」
「まぁそのはずだったんだがなぁ。」
なんとまぁ適当な事で。
ただ、結界が割れたとなると、術者である例の少女ら二人に、何らかの影響が出てしまうのではないか?。
「いや、それは大丈夫だ。あいつらにも、いうなれば真琴の連れの四匹にも、危険は無いよ。」
「そういう様にしたもんね。それに。」
館主と神様が云うと、割れ目が勝手に修復されていくのが見えた。
魔女は予想していたかのように、笑みを崩さずにいた。
むしろ「これでこそ」と云うような、そんな様子。
「用意周到ですね。」
「そりゃ勿論だ。まぁ予想より割れるのが早かったのだがね。」
さて、と看守が言いながら立ち上がる。ウチの神様よりたわわに実った胸が揺れると、どうしてもちょっとだけ目がそっちに行く。ちょっとだけ。
「そろそろラストスパートと行きますか。おい演出担当、例の少年は見たのだろう?」
「見ましたよ。それで何となくですけど、クゥさんの今回の目的がわかりましたから。」
「察しがよくて助かるよ。全く。」
まるで困ったよ素振りを見せずに、クゥさんはそう云った。

さて、とつぶやいて指をパチンと鳴らすと、裸だったクゥさんの体に、服が現れてた。
普段のジーパンとYシャツではなく、なんだろう、どこかアインさんに似た服装だった。

「さて、そろそろ締めにかかろうじゃないか」

とんでもない事態なのに、なんでこの人は、楽しそうなんだか。

 

 






ツギ