「ねえよーちゃん、ちょっと質問なんだけど」

「ん?」

「よーちゃんはなんで静真さんが好きになったの?」



遥無(ような)はブーッと豪快にお茶を吹き出し、ゲホゲホっとむせ始める。

そんなにへんなことを聞いただろうかと、苦笑いしながらちぃは遥無を眺めていた。



秋空。

境内から見える草木が、朱や黄色と色づく紅葉の季節。

少し風は冷たくなってきているけれども、例年にない蒸し暑い夏よりも、大分過ごしやすくなってきていた。

色づく紅葉が風に乗って吹き上がる。せめて石畳の部分だけでもと片付け始めたのが最初で、母譲りの巫女服を着ている少女、ちぃにとって、今や箒で落ち葉を集めるのが日課となっている。

その日課の最中に、真っ白な髪を揺らせながら、必ず遥無が訪ねてやってくる。これが遥無の日課で、ちぃが集めた落ち葉で焼き芋を作るのも、むしろこっちが遥無の本当の日課だ。



一口食べる度に、少し顔がほころぶ。

焼き芋が一層おいしく感じるのも、秋だからかなぁと。

縁側に腰掛けたちぃはしみじみと思いながら、遥無の作った焼き芋をほおばる。口の中に甘い香りが広がると、少しだけ、幸せな気分になる。



ようやく息を整えた遥無は、大きなため息をついてからも、もじもじと落ち着きがない。

「ち、ちぃだからいいけども、急に何を聞くと思えば。」

顔が真っ赤の遥無は、一先ず落ち着くために、ちぃの煎れたお茶を飲む。その動揺っぷりは、誰がどう見てもわかるほど。

「いや、まぁ、ほんとに興味本意なんだ。何でかなーって。」

「な、何でって・・・うーん・・・何で、かな?」

改めて聞かれると、というもので。

そりゃかっこいいしとか、思ってるし・・・。ああ見えて優しいし・・・。

なんか、うまく言葉にはできない。

うーんと唸りながら考えてみる。けれども、考えれば考えるほど、わからない。

それに、なぜか頭に浮かんでくるのは、いつもいじられたり怒られたりする風景だらけ。

ま、まぁ、大事にされてる?のかな。

そんなこんな考えて、結局浮かんだ言葉。

「あれだ。たぶん。何となくなんだよ。何となく。」

人差し指をたてながら、妙な自信をたっぷり込めて遥無は答える。

「・・・っふふ」

「な、なんだよー。笑うこと無いじゃんかー」

「ごめ、ふふ、ごめんごめん」

何となく、で聞いた答えが、何となくで。

そっか。たぶん他の誰かを好きになるってのは、こういうことなんだ。私がお母さんとお父さんが好きなのとはまた違う、他の誰かをしょうがないくらい好きになるのは。

そう思うと、遥無が羨ましいのと、なんだか嬉しくなったというか、楽しくなったと言うか。遥無の仕草も相まって、ちぃは込み上げた笑いを我慢できなかった。

「きっとさ、何となく、なんだよ。よーちゃんみたいに誰かを好むのって。」

「うむ。もう好きになってしまったんだから」

「「しょうがない」」

二人で声を揃えて口に出すと、秋晴れの空に、二人の笑い声が響いた。

「きっとそのうち、ちーちゃんもそうなるよ。どーしよーもなく、仕方がないってのがさ」

「そうだなぁ。ねえ、もしそうなったら、お父さんとお母さん、驚くかな?」

「そりゃ驚くだろうさ。あの二人だし。黒い人なんて一週間寝込みそう。」

「えー、それはないよー。大丈夫だよー。」

まさか、と笑いながらそうは云うけれど、いやそれあるかもなぁと、心のなかで苦笑する。何せあの人だからなぁ、と。

「あ、そうだ。よーちゃんってさ、静真さんの前だと話し方変わるのって、なん・・・」

ちぃは途中で言葉を切った。なぜなら、遥無の顔がさっきよりも赤く、そしてまるでウサギのように、プルプル震えていたからだ。目も焦点があってない。

あ、これは。

と思ったのが遅かったと、ちぃは遥無の様子を見て察した。

そしてとても小さな声で、呟くように言う。

「・・・・・・いから」

「?」

「・・・は、恥ずかしい・・から・・・・・・うがー!!」

「ちょっ、よーちゃん、ごめんってばー」

顔を真っ赤にして、腕を振り回しながら暴れだした遥無。ちぃはそれをスルリとかわしながら、手を合わせて謝るしぐさをする。

「お、何か聞き覚えのある声と思いきや。魔女っ娘が今日も遊びに来てるじゃないか。」

「あ、お父さん、お帰りなさい。」

なにもないところから、突然声がした。

たった今、どこぞやの図書館から帰ってきた、うん、僕ですよ。語り部役の僕ですよ。いえー。

突然出てきたのは、愛娘が僕の噂をしていたからだからなんて、そういう訳ではないよ。たぶんしてないと思うけど。



まあそれはともかく。

今や娘の親友である魔女っ娘は、いつものポジションでいつも通り焼きいもを頬張っていた。

そんながっつかなくても、と思えるくらい、いかにも旨そうに。僕の分もあるかな。ないかーなー。

どうやらいつものごとく、数多くの焼き芋は魔女っ娘の頬袋と胃と、幸せ度数的なものを膨らませるために旅だったようだ。

「また邪魔しに来とるよ」

「ん、いくらでもゆっくり、お邪魔しててもいいよ。」

娘の親友となれば、そりゃあ精一杯もてなすさ。気持ちだけでも。

「あれ、シロは?」

「お母さんならアインさんに会ってくるって、お父さんが出てすぐ行ったよ。」

うむ、そういえば昨日、アインさんに用事があるって云ってたな。いや、アインさんが用事があるから、シロがいってくるって云ってたな。

ふむ。シロがいれば早かったんだろうけども。

「そかそか。うーん、ならどうするかなぁ・・・・・・なぁ君たち」

な「「ん?」」

はっ、と思い付きで呼んでみたら、二人は同時に僕を見た。

「ちょっと、手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな?」










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ツギ