1.




「はぁ?神様?なに、とうとう人でもやめた…いや、露華ならあり得る話か…」

「い、いやいやいや、私、普通の人間だから。」

「普通って、どこに占いを予知予言にするだけじゃなくて、終いには透視やら千里眼やらができる、普通の、ふーつーうーのー、人間が居るっての。」

そ、それを言われると、正直ぐうの音もでない。「そりゃあ、そうだけど、も・・・」と、言葉の最後が勝手にしぼんでいく。それを隠すように、私は炭酸の効いた冷たいコーラをすする。


街中にあるファーストフード店で、図書館からの仕事帰りである私は、親友の真琴といつもみたいに世間話をしていた。世間話というか、ただただ駄弁ってる、という方が馴染む気がする。何だかんだで私たちが行き着くところは、だいたい何があってもここになるし、高校生のころからそれは変わらない。

もっとおしゃれっぽい喫茶店も、この街にはたくさんあるのだけど、私があの雰囲気にいることに、妙な不安を覚える。簡単に言うと、似つかわなさそうで恥ずかしいのだ。

今日もポテトが揚がった時の効果音が聞こえてくると、どことなく「普通」を感じられるのも、私としてはうれしいところ。二階の窓際にあるテーブルを二人で占領し、かれこれ1時間ほど経過したところだった。

目の前にいる真琴は、氷しかないオレンジジュースのカップを、諦め悪くストローですすっていた。お家の用向きが片付いたからとなかんとかだから、いつも通りいつもの時間にここでー、というメッセージが届いた頃には、お互いすでに店の前に到着している。こんないつも通りの風景の中で、私と真琴はいつも通りを覆す会話をしている。まぁ、なんかこれもいつの間にか、『いつも通り』になっちゃっているわけだけども。


「でさ、実はね、こんなことも出来るようになって。」

私はテーブルの上に、一枚の紙を広げた。そこに、ゴルフボール程度の大きさの、ひよこのようなマスコットを落描きする。

「こんなことって、なんだ、露華がいつもラクガキする饅頭じゃん」

「ま、饅頭じゃないよ。インコだよ。まぁこの際どっちでもいいんだけどさ…。で、これをね…。」

そのひよこ?インコ?を、あの神様に教えてもらった通りに、『其所にはじめからあるものだ』と思い、考えながら、人差し指の腹で、軽く触れてなぞる。

どうやらこの時、一瞬だけ私の瞳の色が、真っ青に変わるらしい。真琴もそれに気が付いたようで、少しだけ顔つきが険しくなった。


そのあと直ぐ、さっきの紙の中で「ナニカ」がモゾモゾと動き始める。

1本ずつ足を起こしながら、まさに紙の中から『外に這い出ようとした』。ゴゴゴゴゴという擬音が私たちの周りで出ている、気がする。

頭が出てきて、いかにもイケメンお姉さまっていう感じのいい声で「ニャァ」…って鳴いたタイミングで、私はバンっと手のひらで叩きつけた。

それこそ、紙にまた押し戻すようなつもりで。今のは無しと言わんばかりに。


ゆっくりと手を離すと、手の下にいたインコ?は、多少輪郭が汚れたりぼやけたりはしているけれども、さっきの紙の上に、『平面』に戻っていた。

「…露華、ソレ、まじ?」

「…たぶん、まじ、かな。」

お互い顔を見合わせながら、変な汗が一滴落ちる。真琴の険しい顔つきは一瞬だけで、唖然とした顔から一転、また直ぐに気だるそうな顔に戻っていた。ずずずっと中身のないジュースのカップをすすり、中身がなかったからなのか、はたまた私の今の「ソレ」を見たからなのか、大きくため息をしてテーブルに突っ伏した。

「ソレ…クゥさんには言った?」

顔を腕の中に埋めて、ぐぐもった声で問いかけてくる。いかにも「あぁこりゃぁてーへんだわ」と言って言うような気がした。

「い、いやぁ、まだ言ってない、けど…。」

「そうよねー…てか、どうせ多分、もう知ってそうだけどねー…」

ああ、まぁ、それはそうだろう。何せクゥさんだし。ということだけで理由になり得る人だし。



時間を戻して数日前のこと。

そもそも私が「あの時迷い込んだ廃墟の一室」は、アインさんのお姉さん=クゥさんの家だという。

当の本人に「迷い込んでしまった」と言わないのは、私の気持ち的なところ。

小学生じゃないんだからわざわざ隠さなくてもー、ってのと、どうせもうばれているんだから、と確信しているからだ。

けれど仕事中にはこれといって何も、クゥさんから言ってくることはない。

本当にいつもどおりな感じだもんだから、いつもどおりセクハラをしてくるのだから、いつもどおり接してくるもんだから、特に私も言わずにいるだけ。なのかもしれないけれども、どうなんだろうか。この話題を避けている、という感じでもないような。


ただ、言わずにいるのは、私によるところが大きい。今、私が考えてしまっていることが、不安として大きいからだ。

「…いや、なんか、ほんとのところ、言ったらどうなるのか分からないしなぁ…っていうのが怖くて、言ってないだけ、かもなのかなぁ…」

「ん、何よ、怖いって。」

真琴はうずめた頭を少し上げて、じろっと睨みつけるように私を見ている。

「なんかね、占ったわけでもないし、視たわけでもないんだけどさ。ほら、なんだかんだあった後に、クゥさんがいなくなったりする、なんてことがあるのかなぁって。」

「なんかって、何か、まぁ、そうねぇ…。言いたいことは、なんとなくわかる気もする。」

納得したのか、再び真琴はテーブルに突っ伏して、窓の外を見る。ポテトの塩が真琴のツインテールにつくたびに、私は真琴の髪をもって、パタパタをふるう。そんないつも通りのことをしながら、私たちは非日常の会話を続けている。改めて言うけれども、もはやこんな会話が、私たちの日常となっていた。


真琴が窓の外をやけに眺めていたのに気づき、私も同じ方を向く。すると窓の向こうの方には、図書館の屋根が、ほんの少しだけ見えていた。思えばあの図書館の利用者なんて、一日に数人あるかどうかで、基本どこからともなく入荷してくる大量の本の仕分け整理と、貸出書籍やストックの管理などがメイン。

どう考えても怪しいのに、一応『市立』という名称が付随する図書館。在籍する二人の職員はどちらも魔女と噂され、館主に至っては魔女どころかなんというか、という人?いや、まぁ、そんな人。

ちなみに私の履歴書には、覚えのない司書と公務員の肩書がつけられて、いつの間にか正職員として勤務している。毎月それなりの給料と、それなりのボーナスと、桁がなんか違う手当てがついている。


いやー、どう考えても、そりゃ怪しいよなぁ…。


「マコ、私思うんだけどさ。」

「なにさ?」


「普通って、なんだろう」


「あぁ、それね……まぁ…私に聞かれてもなぁ……」

「だよねぇ……」


どこかの誰かに向かって、気持ちだけでも叫ぶのは許されるだろうか。

普通って、なんだーい。










//おかしな少年と神様の少女//

//空を覆う//


ツギ