4.



彼女が目を覚ましてすぐ、まるで子供のように泣いてしまった。

まるで親を探す小鳥のようだなというのが、私の素直な感想であった。

手で顔を覆っても、隙間から声と涙があふれ出る。

すぐにノマが駆け付け、私のお気に入り(推しライバー)のタオルを彼女に渡す。

まぁ、これは正直しょうがない。普通の白いタオルもそこにあるのだけども、なんとなくわざとソレを取った気もするのだけども、いつものことだから諦めている。

それよりも、まずは目の前の彼女が落ち着くことを祈って、私はキッチンに戻った。


「はい、これなら飲める?」


ちょうど先日買ったお茶葉を使う。たしか鎮静作用があったはずだし、私も上司にクッソ言われたときに落ち着くために使っているから、実績もある。

ベットから辛うじて起き上がった彼女は、少し震える手で受け取って、ズズとすこしだけ口にしてくれた。泣きじゃぐったせいか、瞼も頬も真っ赤になっていた。


「ありがとう、ございます…」


ちいさな声だったが、意思表示をしてくれたことに感謝する。

どういたしまして、と私も返し、彼女の前に腰を下ろした。


「何があったか、良ければ聞いていい?」


彼女に対してそう聞くと、ゆっくりとうなずいて、少しずつ話してくれた。






「空を飛ぶ少女」の件からしばらくたった。

つまり自称「津軽信正」こと、見るからに平成のJKのような少女であるノマが、私の家に居候を初めてからも、暫くたった。

幸いにも家事全般はしっかりこなすし、どうやら「あの熊の人」とも色々裏でやっているようで(なんか某黒幕みたいな呼び方だけども)、家賃の半分を毎月入れても暮れているから、なにも文句は言えない。

文句を言おうとすると鼻で「フフン」といわれるし、まぁいうほどの文句は…思い出すほどにいろいろあるけど、特別ないとしておく。


で、だ。きっかけは偶々。

今月の特集テーマは、冬から春にかけて、または秋から冬にかけて岩木山斜面に現れる「模様」、およびその条件下における降雪量の違い、というものだ。

ネットでも文献は閲覧できるのだけども、もうちょっと踏み込んだところを調べてみたいと思い、暇そうなノマを連れて図書館までやってきたのです。

何度か訪れてはいるのだけども、相変わらずなんだか、雰囲気が変なところだなぁと思いつつ、蔵書量については申し分ないどころか最上級であるから、私はネットや取材で拾えない裏付けをするためによく来る。


ただ今日はなんだから、いつも以上に雰囲気が異なる?という気がした。

普段感じられる、なんかこう、神聖なというか清廉なというか、そういう空気がないように思われた。

それにコーヒーの香り。ここの館主が好きで、来るたびに旬な豆だと紹介を受けていたほどだ。いつか特集にしたいと思っていたほどだったのだけども、それすらない。


「ねぇコウ、なんか変よ。」


吉川コウだから、コウ。

ノマは普段「よっちん」か「よっぴー」、それか「まごちん」と呼ぶし、話し方もちょっと前のギャル口調。

それがないということは、「よほどのこと」があるという合図。


そして入館してすぐ、異変を見つける。

館主の助手である田中さんが事務室の奥で倒れているのを見つけたのであった。





「救急車を呼ぼうと思ったんだけども、ノマが、あ、そこにいる女の子のことなんだけども、連れて帰ったほうがいいって。」


車の後部座席からノマの私物を片付けたばかりだったのが、ここぞと幸を奏した。

彼女を、田中さんを後部座席に運んですぐ、「図書館は霧に包まれるように消えた」のだ。


「施錠の心配はなくなったから、今はこれで都合がよいだろうさ。」


ノマ曰く、この場所に必要な人が離れると、自然とこうなる場所らしい。

居間いるアパートの部屋からは、山間にある図書館が見えるが、近づくと広い駐車場しか「認識できない」ようになっているらしい。


「なんか、すいません、変なあれで…」


「ああ、いいのいいの、気にしないで。私もなんだかんだ、そういうのは慣れてるっていうか、なんていうかね。」


そういえば前に、看守さんにも聞いたことがある。

あの図書館に行き来できるというだけで、それなりの条件が必要だと。

たぶん私は、そこでくつろいでいるヤツ絡みか、それとも熊の人かなとは思うんだけども。


「ちょっとまってね、おひるごはんの残りしかないけども、チャーハンくらいならつくれるからさ」


「えー、私も食べるー。」


お前はたらふくさっき食べたろうに。

と、いつしか口調が元に戻ってるノマに対して思うが、「はいはい」と返事をしておく。

まぁ一人二人分くらいは、手間は変わらないし。


「あ、お、お構いなくです…ありがとうございます…。」


「遠慮なんていらんちゃーよ、露魔女ちゃん。吉川家のチャーハンは、ビバイチかんね」


ノマの(エセ)ギャルに気おされてるが、さっきよりは落ち着いてくれたようで、私も安心する。

さてと冷蔵庫を開けようとしたとき、田中さんが私に声をかけた。


「あの、吉川さん、ですよね。いつもよく図書館に来てる…」


「そうそう。吉川コウ。吉川でもコウでも、好きなほうで呼んでいいよー」


「じゃ、じゃあ、コウさんで…。あの、改めて本当にありがとうございます………あ、あの…もしよかったらなんですが…」


田中さんはそういうと、ゆっくりと立ち上がって私に言った。



「館主を…クゥさんを探すのを…手伝ってもらえませんか…?」











マエ ツギ