大図書館は、さっきまでいた津軽富士見湖のあたりからだと、車で1時間ほどかかった。
無い本など無い、と言わしめるほどらしいが、外見からはそこまでは思えないのだ。
けれども、実際に立ち入ると、外から見た時より広く、そして書量も多く感じた。まるでダンジョンか何かだといっても過言ではない。
けれども此処の従業員はたった3名だというのだ。お手伝いがあと4人ほどいるらしいが、実際はこの3名、もっと言うなら館主と司書の2名でほとんどをカバーしているという。
そこそこ広い駐車場は、私の車と真っ赤なスポーツカー、それと薄ピンクのカワイイ軽自動車の三台だけだった。
そう、この図書館、こんなにも広く所蔵も多いというのに、なぜか利用者が少ないことで有名なのだ。若い子の・・・いやわたしも未だ若いけど・・・の間では、目的がないとこの図書館には立ちいることができず、その目的も『ある程度のモノ』でなければ、この付近に来ることすら、なぜかできないと言うのだ。来ようとしても、気が付いたら通り過ぎているか、もしくは元居た場所に戻っているらしい。
なんだか、私が追っている空飛ぶ少女よりも、この図書館について調べたほうが、よっぽどオカルトじみている気がする・・・。
が、今はかの少女だ。
もしさっきのが本当の話だとするのならば、幸い私はこの図書館に立ち入ることができるだけの『目的』となっているようだった。ガラスのドアを開くと、円形で広いエントランスホールが目に飛び込んだ。
それこそ、円形劇場のようだ。中心には館主と司書の二人が、まるで喫茶店のようなテーブルとチェアに座っており、そこから放射状に無数の本棚が立ち並んでいた。
テーブルの上には珈琲と、整理中と思われる分厚い本が数冊。
中心だけにが核を絞るのであれば、図書館というよりは、本当に喫茶店の一角のようにも見えた。
それにたしかに、外から見た時よりも、広くは感じる・・・。ま、まぁ、この本棚の数だし、目の錯覚なんだろうと思うことにした。
館主の女性はスマホを片手に電話中だったが、司書の女性は私がドアをくぐったのに気づいて、ノートパソコンのキーボードから手を離す。二人ともスタイルがよく、眼鏡が似合う女性だった。
館主は、外国の人だろうか。奇麗な蒼の長い髪は、大きなリボンで括られていた。
「いらっしゃいませ。何か、お探しですか?」
「あ、えぇ実は・・・」
接客担当は主に露華の仕事だ。
というか、ここ数年で露華の事務作業も何もかもが成長し、いやもう成長しすぎて、私はもっぱら電話をして裏調整するくらいしか、露華の容れるおいしいコーヒーをすするくらいしかしていない。
「あ、やぁやぁ母上様。お前さんの次女の言った通り、例の記者、ここに来たよ。」
そして今日も、例の「母上様」に、暇つぶしを兼ねた電話をしていた。
「まぁいや確かに、アインも魔女っ娘も来るから、空飛ぶ女の子って言っても間違いではないけがね。」
『あ、そっかその人、鶴葉のこと追ってるんだっけ?』
「みたいだぞ。当人にも会ってるのにな。その辺は流石お前さんの次女だ。いろんな意味でな。」
『ふふ、そうだねぇ。ところでさ、シロ様、あいや、シロさんって、そっち行った?』
「ん、今日は来てないぞ。前に来たのは、先週だったか。どうした?」
『あぁいやねぇ、どうやらシロさん、そこにいる記者さんに会ったみたいなのさね。いつもどおり気まぐれかなぁって思うんだけどね』
「あぁ、それは気まぐれだろう。
最近は娘も魔女っ娘と一緒に、私の依頼をこなしてくれてるしなぁ。シロいのも暇を持て余しているんだろうさ。」
ここ最近あったこととすれば、それこそ電話先にいる『母上様』の息子の件くらいだろうさ。結局それも、特段何かあったわけでも無かったわけで。
「てかお前さん、あれだろ、家族ぐるみで配信してるからだろう。」
『あ、やっぱり?』
「そりゃあ私らみたいなのや、お前さんに近い部類の『モノホン』もいるみたいだがな。そりゃ気になるやつも出てくるだろうさ。」
『いやぁ、時代だねぇ。ちょっと前はこんなこと、考えもしなかったんだけどね。』
「こうやって遠くから、文明の力で話をするってこともな。
あぁそうだ。前にお前さんの三女の件調べたやつな。あれの礼として、今度は私からちょっと頼みたいことがあるんだがな」
『ぬ、めずらし。クゥからそういう話来るなんて。いいよー。あぁけど、お礼に今度お米持っていこうかなって思ってたんだけど。』
「それはそれで頂こう。それに加えてって形で、なぁにそんな大したことじゃないさ。
実はな・・・」
こうして今日も、私の一日は過ぎていく。
日に日においしさを増すコーヒーを片手に、私は電話先の地母神と雑談をするのだ。