この広さの図書館から、よくもこんなに早く見つかったものだと驚いてしまった。

司書さんに呼ばれて中央エントランスに戻ると、例のお手伝いさんと思われる4人が、司書さんと楽し気に会話をしていた。

後で聞くと、司書さんの直接の部下?ではなく、司書さんの親友の部下だそうだ。今日はたまたまその人が居ないため、お手伝いさんたちが、司書さんのお手伝いをしていたようだった。


司書さんが見つけてくれたのは、本当に小さな新聞記事だった。

発刊日は、今からちょうど50年前の夏。夕暮れ、いわゆる逢魔が時であったらしい。

一面、ではなく、地域情報よりも小さい。

簡潔に書かれた、それでいて凄惨な事件だった。


歌野家。

当時としては、地元でもそこそこ名の知れた商家であった。

地元に古くから成る歌野家は、幸いに戦火からも逃れ、戦後すぐに地元復興に助力するほど、親しまれた一族だった。

その屋敷は広く大きなかやぶき屋根で、当時でもすでに珍しくなりつつあった、古き良き日本家屋だったという。

その一家が、火打ち、すなわち強盗放火の災難に遭った。


まるでお盆の迎え火に合わせたように火が昇り、あっという間に焼け落ちた翌日。

一家の直接的な死因は、部位切断によるショック死、刀傷だったらしい。

そこまでわかっていたのにもかかわらず、犯人は結局見つからなかったらしい。

血族が完全に途絶えてしまったというのに、誰も警察の不明瞭な捜査に意も返さず、時効を迎えたらしい。


ただし、一つだけ。

当時の消防団が焼け跡から捜索したところ、娘の一人が見つからなかったらしい。

いくら相当な家事であったとしても骨は残る。もしかするとと、希望を唱えた人も居たようだが、しかしそれでも当時の凄惨な状況から、結果、生存はあり得ないとされた。

いつしか一人娘も死んだものとして、歌野家の墓に名前が刻まれた。


「この事件から少し経って、地元住民、つまるところ街外れのあたりで、『歌野の一人娘が天女になった』と噂されたそうです。それが、こっちの記事ですね。」


司書さんが取り出したのは、地元発行のよくある広報誌だった。

事件から五年後。当時の事件の記憶も薄れたころに、この噂が出始めたそうだ。


「奇跡的に、当時の目撃写真も残されていました。本当にたまたまだったようです。大雨で怒った岩木川の氾濫を写真に収めるため、たまたま土手からの風景を撮影したそうです。」


当時のフィルムカメラであるため、ある程度劣化してしまっているが、ほんの少しだけ小さく、『空を飛ぶ少女』の後ろ姿が映されていた。

心に落ち着けと言い聞かせながらも、司書さんからその写真を受けとり、私は自らの目撃写真をテーブルに並べる。

二枚の写真を見比べたとたん、私の震える手は、ぴたっと止まった。多少服装が違うように見えるが、特徴的な蒼い髪色に、腰のあたりから半透明な翼が見える。


間違いない。

同一人物だ。


けれども、おかしい。

これじゃ、この少女はまるで。


「・・・待ってください。この写真、45年前なんですよね・・・?」

「ええ。そうです。実は事件から5年たったころのこの写真でも、既に彼女を知る人からは、違和感があると声が上がっていたようです。

 もし彼女が生きているとするのならば、どうやら、歳をとっていないようなんです。

 あの頃から変わらない姿のまま。だからこそ、『天女』と言われたそうです。」


・・・いや、そもそも、空を飛ぶ少女っていう時点で、何でもありと思ったほうがいいのかもしれない。


一息つくつもりが、大きくため息が出てしまう。

それを見た司書さんは「お役に立てば幸いです」と、新たなコーヒーを手渡してくれた。

それを一口飲んで、私は改めて二つの写真を見比べる。


「私自身、オカルト記事の記者をしているだけあって、こういうのは大好きな部類なんですね。けれどもまさか、こんなに早く、此処まで『深い』ところに手が届くなんて、思っても居なかったんです。」

「どうでしょうか。私の経験上、こういった類の話って、意外とまだ『浅い』と、私は思うのです。記者さんよりも若輩なので、こういうのも変かもですけど。」

「いいえそんな。司書さんが私より9つも年下なんて驚きました。しっかりなさっているのですね。」

「ま、まぁ、此処の館主が館主なので、いつの間にかってところです。たまに彼らのような友人らも手伝ってくれるので。」


司書さんの笑顔からは、何一つ濁ったものを感じなかった。

けれども、その眼には不思議と引き込まれそうになりそうで、記者の私よりも、この図書館の様々な知識を見ているのだろうと思えた。


「そういえば、司書さんの瞳って、少し青みがかっているんですね。」

「え、あぁそうです。なんか遺伝らしくて。それに人よりも眼がいいらしいので、この図書館ではうってつけなんです」

「あれ、けどその眼鏡は・・・」

「あぁ、これ、伊達メガネなんです。ただの好みで」


私がこういうのももどかしい気持ちになるのだけども、司書さんの歳相応な反応を見れて、少しほっとしていた。


「これ、あくまでも私の考えなんですけども」

と、司書さんは私に話しかけた。

「彼女、今ではこの事件のことを乗り越えて、それこそ今でも生きながらえているのではないでしょうか。

 50年なんて、私たち人間からすると長い時間です。けども、死に目にあって、昔の家族とはもう会えないのだから、きっと空を飛んで不老長寿になるくらいの奇跡もあっていいと思うんです。」

「そう・・・ですね。」

奇跡の生還を遂げた少女が、50年経った今でも変わらぬ姿で、天女となって空を飛ぶ。

UFOに遭遇したって話よりも、確かに、司書さんの言葉を信じていいと感じた。


「・・・ありがとうございました。私、もう少し追ってみようと思います。貴女のおかげでもっと興味がわいてきました。」

「それならよかったです。この図書館に『これた』意味もあったようで、良かったです。」


最後に記事と写真のコピーを受けとり、私は図書館を出ようとした時、再び司書さんに声をかけられた。

「ごめんなさい、最後に一つだけ、忘れていました。

 事件から五年後、この写真を撮った人とは別なんですけども。地元農家のお婆さんが、死んだはずの少女と実際に話した、なんてこともあったようです。

 当人、十六夜トメさんは15年ほど前に他界されたようなのですが、お孫さんやご家族はまだまだご存命らしく、今はこの地域に居を移してリンゴ農家をしているそうなのです。」


もしかすると、御話を伺えるかもしれない。と。








「・・・これで、良いんですよね、クゥさん。」

「ああ。もーまんたいってやつさ、露華。」

「えぇー・・・。というかあの人、シロさんと、会ってますよ・・・?」

「聞いた聞いた。熊母から聞いた。シロいのの気まぐれらしいぞ。」

「絶対それ、気まぐれじゃないですから・・・。その時点でもう、『コッチ側へイラッシャイ』じゃないですか・・・。」

「あ、ちなみに、熊母に頼んで、さっきおまえが言ってた家族のところで、息子君とはちあうようにしておいた★」

「★ じゃないですよええええ・・・。それ、どうするんですか・・・。ぜったい収集つかないじゃないですか・・・。」

「そもそも考えてみたまえよ、露華女史。この図書館に来ている時点で、まぁ手遅れじゃないか。」

「まぁ、そうかもですけど・・・。」

「なぁに。あの記者、意外なところにパイプを持っているようだったから、ちょっと今後を考えてな」

「パ、パイプ・・・?」

「そうさ。今後の『保険』ってやつさ」













マエ ツギ