山へ入った修験道のことを「山伏」と呼ぶ。

ただ、私が昨日聞いた発音は「やまぶし」ではなく、「やまふし」だ。

十六夜千夜さんも取材の最後に、ハッキリと「やまふし」と呼んだ。


「違う意味がある、のかな」


そう呟きながら、スマホを片手に檸檬チューハイをすする。

いつものごとくパンツとシャツしか身に着けていないが、これにチューハイがあるだけで、私は最強だと思っている。さいきょー。


「孫ちゃん!これもしかして『しゃんぷー』ってやつ!?ま!?パネー!!!メッチャあわかでるしいい香りするじゃんかわいいー!!!」


信政さん。それはお気に入りの香り付きの石鹸ですよ。ボディマッサージ用のやつですよ。

と答える前に、お風呂場に向かい、現代のお風呂ではしゃぐ見た目JK信政様に、事細かに説明する。

これがシャンプーで、これがボディシャンプーで、と私が言うたびに、「なにそれすごいじゃんまごちんなに?神?しろいあの人?やばいんだばって!」とはしゃぐのだ。

親戚の姪っ子のお世話でもしている気分だけども、存外に嫌では無かったりする私が居る。


「…一人くらいは、まぁ世話できるかなぁ…。」

食費は増えるだろうなと思いつつも、まずは彼女の衣食を整える算段を付けなければ。

なし崩しで迎え入れてしまった感はある、けども。

おばあ様を知っているのだし、


と、思いつつも、私の手にあるスマホにはそういったものではなく、ある動画配信のアーカイブが開かれていた。

そこには、とあるVTuberの少女が写っており、私もよく知るゲームを実況していた。


VTuber。バーチャルなキャラクターの動画配信者。

のはずなのだが。


画面に映る少女のキャラクターは、私の目からは「本人」にしか見えないのだ。

キャラクターがたまたま、「例の少女」に似ているだけならまだしも。


袴の柄や見た目の似姿。

「やまふし」という単語。

空を飛び、長寿であり、火打ちにあった話。


この少女の過去の動画をさかのぼれば上るほどに、昨日今日と知った内容と一致する。

とは言え、昼の時点で確信に変わったことに変わりはなく、この少女が「人ではない」、もしくは「人を超えた奇跡」であるということはわかった。

これだけでも、現存するどのオカルト雑誌より、真実味のある実例として記事にできるであろう。

けれども私は、次の瞬間には意外なメールを、上司に送っていたのだ。


『どうやらアタリがはずれたようです。もう数日調べたら原稿だけは仕上げて、通常業務にもどります。』


「ありゃ、まごちゃん、いいのん?」

後には全裸の信政こと、のまのまがいた。私がPCから送った内容を、肩越しに覗いていた。

「ん、いいの。てかちゃんと体拭いて出てきてよ」

「だってバスタオルないんだもんー。あれ、バスタオルだよね、名前」

「あってる。てか、あるから。のまの服の傍に」

「え、いま何?なんて呼んだ?

 え、まごちゃんわたしのこと、え、のま?

 なにもー顔赤くしてかわいいのもー。不卯にもよばれたことないんだけどーうひゅひゅ」

「わ、笑い方気持ち悪いから、早く体拭いてこい!」


・・・・・・そもそも、そこにいる津軽信政が生き返り、しかも実は女性でしたという時点で、ネタの上りとしては十分以上だろう。

それに誰も信じられないハナシこそ、オカルトでは真実であることもあるって、誰かが言っていた気もする。


それも含めて、ここ数日のすべて。

これは外には出せないだろうと、私は判断した。

ジャーナリストの一端を担っているとはいえ、ここまでとは思わなんだ、というのが正直な・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・あれ?


「ねぇのま。貴女、山伏って知ってるんだよね」

「ん、そりゃぁもっちもち肌。」

「もち肌は見ればわかるっての。じゃなくて、もしかしてこの空飛ぶ少女、この画面に映ってる娘、知ってたの?」

「ん〜、知ってはいるけど、会ったことはないかなー。その母親にはあったことあるじぇ。ほら、今そこに映ってる、熊の。」

「…この人も、山伏…?」

「ソダヨ。てかその人が、山長。のまのまがここにいるのも、まじその人のおかげだし」

「…ちょっと気になってたんだけどさ、その口調さ」

「じゃー?」

「似合ってない」

「…まじ?」

まんじ。とは返さなかった。


というか何。

この人たち、山伏って、もしかして。

意外と人になじんでいるってこと…?


「てか、さっき会った子じゃん。ほらそれ、そこの。」

のまのまが指さすところに、確かに先ほど、十六夜千夜さんの畑で見た男の子がいた。


え、何。

もしかして山伏ってこの、グループ?集団?

意外と俗世になじんでるの…?

え、そういうものなの…?


「まごちん、私がいえたもんじゃないけどさ。答えは意外と、問題のすぐそばにあるものだよ。

けれども…。」

一息ついて、彼女は続けた。


「何がきっかけで、気づくのだろうね。」


きっかけ…?


「それは、それこそ私たちのような…」


新聞やニュース、雑誌やネット記事を見て知る…いや、それだけだと興味を持って探そうと思う人は一握りだ。悔しいけども。

では、その一握りが、「知りえる」に至るまでのきっかけは?

きっと、これはきっかけの中の一ケースなんだろうけど、私の場合は…。




「『きっかけ』から寄ってくること…?」







彼女の目を見て答えると、あってから始めてみる、つややかな『笑顔』で、津軽信政は答えた。


「ようやく、『よっぴー』と同じ答えに行きついたね。まごちん」。









マエ ツギ