「お、おじゃましま」「あーまって今まだお掃除終わってなくてー!!!!!」
え、えー…。
というのが第一印象。
玄関から覗いた先には、お堂というよりは民家のような印象だった。
とくに神具仏具があるわけでも無く、「あ”ーぶれーかーおちたーーーー!!!」という怒号とともに、ドタバタと駆け回る女性の姿があった。
ジーパンに上はTシャツと、首からかけたネックレスのような輪が特徴的なこと以外は、ずいぶんとラフな格好の、一見すると普通の女性。
「あ、相変わらずのご様子で…山長…」
「え、この人が…ブレーカーのスイッチに手が届かなくて呻いてるこの人が…?」
「そ、そう…山長…赤倉の熊…なんだけど…」
思わず二度見した。
「いやぁ、ごめんねぇ…ここ、しばらく立ち入ってなかったものだから、まー埃だらけで…。」
「い、いえ…」
「山長〜、こっちおわったんご〜」
「ありたとうんご〜。吉川ちゃんもありがたうねぇ。おかげでようやく、会話できるスペースができたよ…」
もう何年も人が来ていない様子なのが分かった。
畳の上も、棚の上も、床も窓際も。
いたるところが埃だらけだった。
「本当なら、ちゃんと手入れしないとなんだけどねぇ。もうこのお堂を継ぐゴミサも居なくて。」
「ゴミサ、カミサマですよね」
「そうそう、あらよく知ってるねぇ。此処50年で、ずいぶんと居なくなっちゃったのよね。そういう時代なんだろうなぁ」
押し入れから出てきた質の良い座布団は、奇跡的にも埃もついていなかった。
すわりごこちがとてもいい。使った人が少なかったからか、それとも綿を入れ替えたばかりで、そこから座る人がいなかったのか。きっと後者なんだろう。
「ってあんた、そのお菓子どこから持ってきたの…」
「どこからって、まごちんが化粧水パシャってたときに、こっそりコンビニで買ってきたんじゃん〜。カード支払いってマジ便利!」
「そのカードの請求先は私だ。返せ。」
ポテチはのり塩、ポッキーと思いきやプリッツ、仕舞は飴は龍角散。
チョイスのジャンルは間違ってない。ちょーっとズレてる信政公。
ただし賞賛すべきは午後ティー。
「あ、冬萌もこんな感じのお菓子とか飲みもの買ってくるのよ〜。最近の流行りなのかしらね〜」
「お、そうそう山長、三女雪蛇っ娘と一緒によくいる龍のさ、あれやっぱアレだった。」
「ま?」
「まんじまんじ。」
なんだろう、この二人は私より断然年上のはずなのに。
なんだろう、なんか、ちょっと前のJKパリピ語が混ざる違和感は…。
「あ、ごめんごめん、吉川ちゃん。のまと会うのも実は久々でさ。それこそ、貴女のおばあちゃんが亡くなった頃が最後、だっけ?」
「そそ。よっぴーは残らなくてさ。あとはこの子に任せるってね」
まかせる…?
「お婆様が私に…?」
「そうそう」と山長が言うと、山長は崩した足を正座に戻し、私を正面に据えた。
「改めて、自己紹介。なんてのも、今更なのかもだけどもね。」
そういった山長を目の前にする。
その雰囲気に一瞬気圧されて、つい瞬きをした。
瞬間、山長の服装がラフな格好から一転し、ふわりとした浅葱色の着物姿に一変した。
頭からは先ほどまでなかった獣のような耳が生え、肩と胸が大きくはだけているが、神聖なものを相手にしているという、威圧を受ける。
「貴女と話がしたくて。吉川のお孫さん。」
私の目の前にいる女性は、山伏の長、熊森土潤と名乗る。
私たち二人は自然と、正座に座りなおしていた。