//おかしな少年と神様の少女//





01.






「・・・あつぃ・・・」

胸の発育が多少しか見られない神様の巫女服を纏った体から、白い肩や太ももや、薄いけどギリギリ胸といえるような厚さを持つ部分の一部などが、だらしも無くはだけていた。
まぁ、無理もないと思う。
太陽の直射日光を防いでくれている草木や屋根が、いくら影を作ってくれていても、この猛暑を防ぐことは残念ながらできない。
それでも、日向と日陰の3℃という温度差は、この季節にはかなり重要なファクターであるようで、僕らはまるで吸血鬼のように、自然と日陰を求めることになる。
こんなに暑いんだから2℃や3℃なんて変わりないのと同じなのだが、時間が経ち太陽が動くと、同時に僕らも併せて移動する。

今、午後2時現在。太陽という天敵が空高く上りきった頃、神社の屋根の下で白黒の僕らは仰向けになって不貞腐れている。
頭のすぐ側にあった、おにぎりの銀紙が反射する日光が目に痛い。

「この一週間は記録的な猛暑に見舞われるでしょう。」

天気予報のお姉さんは「日射病には注意しましょう」と、天女のような笑顔とともに今日も僕に死刑判決を下さる。
爺ちゃんとまーさんは二人っきりで旅行に行っちゃってたりするから、我が家にこだまするテレビのお天気お姉さんの声が、とても腹立たしく思えてくる。
かといってテレビの電源を消すと、夏の暑さが容赦なく僕の頭を駄目な方向に侵食していく。セミの鳴き声だけが耳に入るよりは、全然いいと思わないと。

まぁだから、僕は連日シロのところに顔を出しているワケで。
少しでも気が紛れるのならそれに越したことはないし、シロのところは、外よりも涼しいからだ。
いや、別に暑かろうが寒かろうが何にもなかろうが、多分シロの所には、どうせ行くんだろうけど、僕は。

けど、少しだけ・・・いや、とても困っていることがある。
神社の中の結界は、天井にポカンと穴が開いたような感じになってしまっていて、あそこからは外の景色が見える。しかも雨が降れば入ってくるし、あそこから涼しい空気が抜けて、暑い。
徐々に修復はしてきているのだが、未だこの暑さを抑制することはできない状態にあった。

まぁ確かに、シロのところは外よりも涼しい。
けど外の気温が33℃だとすれば、ここはせいぜい30℃ぐらいだろうか。
ここまでくれば30℃も33℃も変わらない。
ただ、暑いだけだ。

最初のうちは、神社裏の湖で暑さをしのいでいた。
僕は黒のズボンのまま(脛の辺りまでの長さのズボン)。シロは交渉の末、下着(白い布でぐるぐる巻きにしただけ)で着水。

「え?裸の方がよかった?」
うっさい。

家の近くの古い駄菓子屋で買った水鉄砲を持っていって、シロやちびとじゃれ合ったり、使ってない浮き輪とか持って行ってただ浮かんだりとかして、暇をどうにかしていた。けど、もう今は水に浸かる気にもなれない。そのくらいダラダラしていた。
清涼をとる方法がそれ以外無いというのに、僕達は湿気と暑さに包まれた神社で干物になろうとしていた。

「・・・ねぇクロ、いい事思いついたんだけど・・・」

ろくなもんじゃないというのは解っていた。
けど、他にやることが無いから僕はシロの気まぐれに付き合ってやることにした。
このまま日干しになるよりはまし、と思ったからだ。

「・・・言ってみ・・・」






02.






別に止める理由も無かったし、しても困るようなことも無なかった。
どうせいずれはこうなるんだろうなとも思ってたし、ああやって日干しになるよりはいいと思った。
シロは僕の手をとって体を引き寄せた。
ただでさえ暑いのに僕達は更に体温を上げている。
だがしかし、白黒の好奇心を抑えることはできなかった。しなかった。
暑さが僕たちの頭の中を狂わせていく。
もうどうにでもなれ。
そう思った。


「・・・じゃあ、いくぞ・・・・・・・・・」

「・・・うん・・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待った!留守番。」

そういうとシロは力を使ってちびを召喚した。
目はくりっとしていて、見た目はどっちかって云うと、シロに似ている。
そんな手のひらサイズで頼れる『ちび』である。

「これから外にクロと一緒に遊びに行ってくるから、留守番よろしく!」

「わかりましたー!」

「なんかあったらすぐ教えてねー!じゃ、いってきまーす!」

「はーい!」

「ちゃんと帰ってくるからー!まっててねー!」

「はーい!お土産お願いしまーす!」

シロと僕から出来ているには、しっかりしている。その辺は僕似、てことでいいのだろうか。
小さな手を精一杯振るちびを背にして、僕達は取り敢えず僕の家へ向かうことにした。


「・・・シロ、よだれたれてるぞ。」

「にゃっ!にゃんでもないよ?んー・・・ん。じゃ、じゃいってみよーう!わーぷ!」

「・・・はいはい、わーぷ。」

そう言うと、僕はシロをまたしっかりと抱きしめていつも通りに神社から家へ移動した。
どうせ『ちびって可愛いなぁ・・・いっそのこと食べちゃいたいなぁ・・・』なんてことを考えていたに違いない。
あーあ、服によだれついてるよ。

シロが思いついたこととは、僕の家、つまり外に行ってみたいということであった。
現在、神社の在る結界と、外の境界というものが、あの穴のせいで不安定な状態にある。
シロ曰く、前に結界が壊れたからそうなったとか。僕とシロが会う前の話だそうだ。
そのおかげで、というのは何か癪に障るけど、今まで外に出ることができなかったシロが、外に出れるようになったと云う。

「此処がクロの家?」

「まぁね」

「へぇ〜・・・ほぉ〜・・・ふぅ〜ん・・・」

シロは我が家を見て感心したようにうなっている。

「クロの家って、もしかしてあの人たちが建てたの?」

「やっぱり解るもんなんだな、そういうの。」

「まぁ、これだけ立派な結界が張ってあるんだからね。むしろ解らないのがおかしいよ。」

いや、普通の人はわからないだろ。
けど、僕も最近知ったことだ。
この家は爺ちゃんとまーさんが一から造った、簡易式の神社であるらしい。
外見はほとんどその辺の民家と一緒だが、使っている木材や局所に見られる構造が、何処と無くそれっぽい。天井の一部に至っては不自然に札が張ってあったままだし、僕もそう思わなかったことが無いわけじゃない。
正直、難しいことはよくわからないが、とにかくそのおかげで邪気的なものは近寄れないようになっているらしい。

「で、何するんだ?」

「そだねー、せっかく久々にこっちに来たんだから、案内して。」

「これといって案内するような場所はないんだけどなぁ。」

「じゃあ、クロが私の所に始めて来たきっかけの場所に行きたい。」

何か、懐かしい話だ。
そんなに時間は経ってないのに、もうかなり昔のように思える。

あの時、確かすぐそこの石碑の前でくらっときたのが始まりだった。ちょうど今日みたいに暑い日で、ジュース片手に帰ろうとしてたときだ。

「すぐそこなんだけど、まいいか。」

「いいのいいの。」

結局、僕がシロのところへ来れた方法がわからなかった。シロが呼んだわけでもないらしいし、当然僕にその意思があったわけでもない。
「物事には必ずといっていいほど理由があるもんだ」と爺ちゃんは言っていた。
シロと僕には、『物語』によくある『運命的な因果』ってモノが本当にあったって云うけど、何故あの日、あの時に始まったのかは解らずじまいだ。シロならわかっているのだろうか。
今となっては気にすることじゃないけど、識っておいて損はしないんじゃないか、と思う。今となっては、だけど。

と、その前に。
流石に暑かったから、シロの服を巫女服から着替えさせた。よだれまみれ(もいいけど)だったし。
下着も全部まーさんの物を勝手に無断拝借した。

「『パンツ』ってのは履けたけど、この『ブラ』っていうのはどうやってつけるのー?」

「あー・・・お前には・・・いらないと思うからつけなくていいぞー」

薄い襖一枚だけを挟んでの恥ずかしい会話。こんなの、シロとしかできないと思う。
・・・慣れって怖いなぁ・・・

「覗いてもいいんだよー?」

「しないって」

・・・・・・いや、本当に慣れって怖い・・・・・・。

「・・・あー・・・これ着るの?・・・わぁ・・・かわいいけど・・・」

そのうちに独り言が聞こえてきた。柄にも無くよほど恥ずかしいらしい。
そんな服を選んだつもりは無いんだけど、いやむしろシロに似合いそうなのをグットチョイスしたつもりなんだけどなぁ。

「おわったー?」

そう聞くと、襖が開く。

「・・・似合う、かなぁ?」

顔を赤くして僕にたずねる。
もちろん答えは、

「ばっちり」

腰にリボンが付いた白いワンピースに薄いカーディガン、ついでに言えば白の可愛いパンツ。
ポニーの髪留めも長めの白いリボン。
まさしく神々しいほどの美人が、やけにもじもじしながら立っていた。

「あ、ありがと・・・」

なんだ、やっぱり可愛いじゃないかシロは。






03.






最近またひとつ近い場所に販売機が設置された。前よりも近いけど、目的の場所とは反対だった。
しかし暑さに耐え切れ無かった僕らは、先にそっちの販売機に向かって、ジュースを買うことにした。
あの時のように、販売機に110円を入れてボタンを押す。普通より10円安いのが、田舎価格というもの、なんだろうか。

ガコン、と音を鳴らしてジュースが下の口から落ちてくる。
そのやり取りに興味が沸いたのか、シロが大きな瞳を輝かせてこちらを見ている。
言わなくても解る、私にもやらせろ、と。

「しょうがない、か」

僕はそう言ってシロの小さな手に110円を落とす。
まるで子供のような笑顔を向けて喜ぶシロが面白くて、つい笑ってしまった。

「な、なんだよー」

顔を赤くして言うシロ。

「いや、なんかこうしてみると神様もただの子供みたいだなと思って」

「ぶー、そーですよ、私は何も知りませんよーだ・・・・・・でさぁクロ、これどーやったの?」

最近になって、シロの弄り方(いい意味で)が更に解ってきたような気がする。

「じゃあ先ず、目の前にある銀色の丸い口にその金を入れてみて」

「こ、こう・・・?」

お金特有の金属音が三回鳴り、目の前のパネルに赤い文字で『110』と表示される。

「そこに『110』って字が出てきたか?」

「うん、それとクロの持ってるのと同じものの下に赤い点が沢山出てきた」

「そしたら後はその点を押すだけでいいんだ。同じ形でも種類はいっぱいあるだろ?その中で好きなのを選べばいいよ。」

「じゃぁ、クロのと同じのがいいな」

ぴ、がこん。

「うおぅ」

「下のふた空けてみてみ」

「・・・もし違うのが出てきたら?」

「運が悪かった、と思うしかないね」

恐る恐る下を覗いて、あったと解ったら驚きの声を上げる。
数秒ふたとにらみ合っていたけど、開け方が解ったらしく、豪快に飲み始めた。

「・・・・・・ぷはぁ〜、うまい」

「うん、そりゃよかった」

シロがはじめて販売機を使った瞬間である。なんか、新鮮。

僕達はまた手をつないで歩き始める。
さっきのジュースをあっという間に飲んでしまったシロは、挙句の果てに僕のまで飲んでいる。炭酸がよほど気に入ったらしい。

「ん?」

シロの歩みが急に止まった。

「どうした?」

じっと道路の向うを見続けるシロ。

「・・・あー・・・そっかー・・・成る程ねー・・・」

さっきみたいなお子様モードとは一変して、シロの顔つきが神様モードになっている。
なんか懐かしいなこの感じ。初めて会ったときのシロもこんな顔だったなぁ。


「何が成る程なん・・・だ?・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

体全体に感じるとても小さな違和感。
シロの視線の向うに何かあるような気がした。
見てはいないけど、そんな気がした。
けど、そんなに悪いような感じじゃなく、なんか揺らいでいるような感じがする。

「わかった?」

「うん、なんとなく、だけど」

向うに、僕がシロに会う原因となった石碑の場所に何かある。

「じゃあ、行ってみよっか!」

「あ、ちょっと待っ・・・!」

その細腕の何処にそんな力があるんだと思わんばかりの勢いで引っ張られた。あー、なんか懐かしいなこれも。

「ちょっと!なんか変なものだったら!」

「大丈夫大丈夫!」

髪とリボンが風になびく。
その一瞬の情景が僕から暑さを奪ってくれた、様な気がした。
まぁ、神様が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫なんだろう。






04.






この現象は、夏の気候にはよく、頻繁に目にすることができる。
高熱のアスファルトは蜃気楼を起こし、目の錯覚や熱反射などの影響で、まるで道路の上に水溜りができたように見える。
その水溜りはよく見ると鏡のようになっていて、空の青を綺麗に写しているときも在る。
しかし追っても追ってもその水溜りには絶対に追いつけず、がんばればがんばるほど熱だけが体に蓄積されていく。
この水溜りのことを、一般的に、そして古くから、『逃げ水』と呼ばれている。

けど、近づいても逃げない逃げ水なんてのは初めてだ。
遠くから見ると完全に逃げ水、近づいたってどう見ても逃げ水。まるでアスファルトの上に浮いているみたいだ。

これをただの水溜りというのは無理があるんじゃないんだろうか。しかも水の向うにはあの神社の鳥居がちらほらと見えているではないか。

「もしかして・・・」

「うん。丁度よく逃げ水がクロの下を通ったからじゃないかな、多分。ちょっとだけ触ってみて」

僕とシロは石碑の前に留まっている逃げ水の前に、そろってしゃがみこんでいる。
試しに指でつついて見たら波紋が広がった。

それと同時に、少しだけ足元から感覚が消えていくような感じがした。あの時と一緒だ。

「逃げ水に追いついたら大変なことが起こるっていわれているのは識ってる?」

「いや、初耳だよ」

「知ってる人間はあまりいないとは思う。同存在とあっちゃいけないってのは、昔から結構有名なんだけどね。」

ドッペルゲンガーのことだろう。

「けど意思がある逃げ水があいてじゃどうしようもなんないね。」

「この逃げ水には意思があるのか?」

「一応ね。何かの因果で変化したんだと思う。よほど運がよくないと見られないよ。こんなのは。」

「まぁ解った。けど何で神社が中に写ってるんだ」

「大変なこと、それは殆どが神隠しに準じたものなの。その場所であって違う場所に飛ばされる場合が多い。ということは?」

「・・・あー、そっか、成る程だ。」

僕が理解したから、シロが微笑んでくれた。

神社はこの山の結界の中に存在している。
しかしそこは邪魔なものが出入りできないように細工が施されている。
この山の裏の世界、別の次元に隠れたようにに存在しているのだ。
そこに入る方法は、シロに結界内にいることを許された者(シロ特製の札を持っている)か、シロや僕みたいな存在かでしか入ることはできない。

けど、この逃げ水の水面は、神社を写している。
となると、この山にいるこの逃げ水は、正攻法ではない唯一の結界内に入ることができる方法となる。
僕が此処にこれたのはこの逃げ水が丁度よく僕の足の下にあってそこに僕が入り込んだからだ。
全ての始まりはこの逃げ水にあったわけだ。

「ありがとうね逃げ水さん。あなたがいたから私とクロは出会えたの。ありがとう。」

シロが優しく語り掛けると、逃げ水はアスファルトの上から消えるように、ふっといなくなってしまった。

「・・・あれでよかったのか?」

「うん。あの子には意思があるし、何がよくて何が悪いかとか言う判断も付いているはず。大体人間には見えないしね。あそこま
で成長する原因は解らないけど、あそこまで来るともうひとつの妖怪として見てあげた方がいいのかもしれないし。」

「また見る・・・じゃないね、会えると思う?」

「難しいと思うよ?あの通り逃げ水さんは気分屋だったからね。」

「成る程」

どの道僕とシロはいずれ出会う羽目になってたけど、ありがとう逃げ水さん。
と、思っておこう、また会えるかもしれないし。

「・・・なあシロ」

「にゃんだい?」

「あの逃げ水がもし成長したら、ちびみたいに体を持つと思うか?」

「・・・ありえない話じゃないね。何が起こるかなんて誰にもわからないんだから」

からかうような笑顔を見せてくれた。

「神様がよく言うよ」

「えへへへ〜」

ぐー

「へ・・・あー・・・あははは〜・・・」

突然目の前から大きな腹の虫が聞こえた。
・・・はぁ。

「まだ4時か・・・よし、ちょっと早いけど晩飯作ろっか。」

「クロ料理できるのー?」

「何だその疑いの目は。毎日おにぎりを作って持ってきてるのは誰だと思ってるんだ?」

「にゃ、おみそれしました。」

「よろしい。で、なにがいい?」

「ちびと一緒に流しそうめん!」

「よし、異論無し。」

理由がわかったから、というわけじゃないけど、僕もシロも何処となく気分がよかった。
また手をつないで、家に向かって歩き始める。
ちょっと行った所でシロと僕は同時に後ろを振り向いた。

「ばいばい。」

毎日殊勝に、綺麗な花が飾られた石碑に向かって、僕らはそう言った。

「場所は神社でいいよな?」

「もちろんですとも。じゃ、いっそげー!」

「そんなにあわてなくてもいいだろっ・・・て、まぁいいか。」

先ず家に帰って鍋と素麺とめんつゆを持っていく。
それから湖の綺麗な水を使ってちびと一緒に流し素麺。
その間今日のことをちびに話しながら楽しむ。

完璧じゃないか、そう思っておこう。






05.






「小さいままじゃあまり食べれないので」といっていたにもかかわらず、大きくなってもちびは小食気味だった。
それでも本人は結構食べたらしく、食べ終わってすぐ寝てしまった。

シロは膝の上にちびを寝かせて、今日来ていたワンピースとカーディガンを掛けてやった。
シロの匂い(いい意味で)が付いた服をぎゅっと抱きしめて「お母さん・・・」なんて寝言を言ったときには流石に笑った。
シロなんて顔が真っ赤になって面白いの何の。

しかし、今日のこととか、笑い話とか、そんなことを3人で話しながらの流し素麺の時間はあっという間で、気が付くともう8時、夜だった。
まだ蒸し暑さが残ってるけど、空は満天の星空だった。

「・・・あの服、貰ってもいいかな?」

意外な言葉がシロの口からぼそっと零れた。

「気に入った?」

「・・・うん。」

ほら、やっぱり僕のチョイスは間違っていなかった。

「じゃあ、まーさんに言っておくよ」

「そのときは私も一緒に言う」

何だかんだ言っても、シロは神様である前に女の子なんだ。
そう、可愛い服がとても似合う、女の子だ。

話し変わって、僕はまだ残っている焚き火を見てさっきから、何かに使えないかと考えていた。

・・・・・・・・・・・・・・・あ。

「シロ、今日は泊まってもいい?」

「え、え、あ、まだ、心の準備が・・・」

体をくねらせて声色をそれっぽくするシロ。

「ちがう、そっちに持っていくな」

「えー?ちがうのー?」

「いや、その・・・・・・・・・じゃない、そうじゃない。シロはいつも風呂はどうしてるんだ?」

「風呂って言うより、この湖に浸かって身を清めてるだけなんだけどね。うん、たまにはあったかいお風呂にも入りたいなぁ」

狙い通り。

「じゃあ、ちょっと手伝ってくれない?家にあるものを持って来たいんだ。」

「いいけど。なにを持ってくるの?」

シロは解らない、か。
けど普通なら焚き火と風呂と露天で思いつくはず。
前に一度だけ爺ちゃんと入ってみたんだけど、これがなかなか良くて。
これぞ日本、てな感じもしないではないような気がする。

我が家の裏の物置に在るドラム缶と丸く切り抜いた敷板。
そう、ドラム缶風呂である。

「あー!五右衛門風呂かぁー!」

やっと気づいておいて、その言い方はないだろう。
五右衛門さんに失礼だ。



家の中からタオルとかを持って神社裏の湖へわーぷ。
丁度いい形の岩をその辺から取り揃えて穴を掘り石を積めドラム缶を上げる。
それに湖の綺麗な水をいれて火を焚く。(めんどくさい作業はシロと僕の裏技的反則的な力でどうにかした)

「うぇ?なんですか、これ?」

途中でちびも目を覚ましたから、先に女性軍を入らせることにした。
えー、問題は裸の女二人に男の僕がいるということなんですが・・・残念ながらその辺の抗体はシロのせいでついてしまったらしいです・・・悲しいことに。
あー、タオルはしっかり巻かせますけど、もちろん。

「火加減はどうだー?」

「ばっちりー・・・ふぁ〜・・・」

「いいお湯ですね〜・・・はぁ〜・・・」

ドラム缶の淵に腕を掛けて、二人とも脱力しきった顔をしている。
やっぱり温泉は万世万界共通で最高の癒しを与える文化なのだ。
シロの顔なんて見せてやりたいぐらい面白いことになってる。

「こ〜ら〜・・・ひとのかおみて〜・・・わ〜らう〜な〜・・・はぁ〜・・・いきかえるぅ〜・・・」

生き返るって・・・いや、突っ込んだらきりが無いな。

此処である事実に気付いた、気が付いてしまった。
ちびの方が、シロより胸がありそうだということに。

「・・・シロ」

「にゃぁ〜にぃ〜?」

「まぁ・・・なんだ・・・ゆっくりしてもいいぞ」

「逆上せない程度にそうするぅ〜・・・」

神様でも、自分の体型はいじれないらしい。
てか外見18歳のシロが外見13歳のちびに劣るてのは・・・どうかと・・・。

まぁ、そんなギリギリな話はいいとして、即席ではあったけどドラム缶露天風呂は好評だった。
僕が入る頃になるともう9時半を回っていた。ちびは上がってすぐにまた寝てしまったし(正確には山の中に戻った)、シロは何だかんだ言って逆上せそうになっていたから僕が引っ張り出した。
今そこで転がっているのが まさにそれである。
此処からでも見えるぐらい湯気が上がってる。

神様なのに、頭いいんだか天然過ぎるのか。
それだからこそ、シロらしいって言えばシロらしいんだと思う。

「だから、シロが好きなんだろうなぁ、僕は」

「私もだよ、クロ」

不覚、起きてたか。

「お、大丈夫かシロ?」

「うにゃ、大丈夫大丈夫。」

まだ足がふらふらしてる奴に言われてもなぁ。

「あて。」

ほらみろ、転んだ。

「全く、大丈夫じゃないじゃないか。」

「あははは、面目ない。」

薄手の着物のまま地面に尻餅をついた姿は、何処から同見てもただの少女でしかない。
僕もまた、ただの少年にしか見えないんだろうなぁ。

「ねぇクロ」

「ん?」

「明日はちびの、探しに行ってみない?」

前にも言った通りちびはあくまで僕とシロの分身で、存在が確立されてはいない。
シロからの力の援助が無ければ、実体化することもままならない状態である。
なにかちび自信が、自分の存在を見つけられる「きっかけ」があれば、僕とシロのように、ずっと一緒に居られる。

「かどそれは、ちび自身がどうにかしなきゃいけないんじゃなかったのか?」

「本当はそうなんだけどね。けど、その必要があるのかな?私は知識もあって力も持っているけど、全てが出来るわけじゃないでしょ?」

「それは僕だってそうだよ。ただでさえ僕の場合は特殊だと自分でも思ってるから。」

「そうだけど・・・こんなことを待つ必要なんて」

「ないよなぁ・・・別に・・・」

「・・・うん。だから・・・」

ちびに「おかあさん」といわれるだけはある。
最近母親らしくなってきたじゃないか。

「・・・うん。いいよ、手伝うよ。」

「本当に!?ありがとークロ!!」

「ああこら、飛びつくな!危ないって!」

父親らしい威厳ってのは知らないけど、それっぽいことしないと。




ただ、シロにはもう少し加減ってものを覚えてほしい。

火が強すぎて熱湯になってしまった。

あつい。










ま、いいけど。







ツギ















































































































































あれは、僕だ。
紛れもなく、僕で、アレは、シロだ。

そうだ。
覚えている。
僕はあそこにいた。

ああやってシロと一緒に居て、ちびという子と一緒に居て、あの神社で、ずっと前から、生きていた。


ツギ