//おかしな少年と神様の少女//

//母狐の書き方//



3.


朝埜姉さまの話では、兎はとてもおびえやすいし、寂しがりだという。静真はまさに兎みたいなやつだから、同じように兎の私がついていなくちゃいけないとも。

うーん、否定できない。二人ともども全体的に白くて、それこそ兎みたいに目が赤くて、静真はともかく、私なんて特に寂しがりやだっていう自覚もある。恥ずかしがり屋でもある。

そう考えてみると、朝埜姉さまがいうように、私と静真は似たもの同士?なのかなぁ。


「ちーちゃんちーちゃん。私と静真って、似てる?」


早くも飽きたー。というわけじゃない。本当。

けども、気分転換に違うことを考えてみたら、なんとなーく、本当になんとなーく、なぜかなんとなーく、静真のことを思い出したから、ちーちゃんに尋ねてみた。


そこまで古びてもいない家屋の中。ちーちゃんが言うには、正確には違うそうだけども、あの黒い人の昔の家だとか。

まずはそこを探してみようというちーちゃんの提案に乗って、二人家の周りを探索中。軒下だったり、天井裏だったり。入り込みそうなところを見つけては、という感じ。

二人で並んでしゃがみこんでは、いないなぁ。なんて言いあいながら。

ちょうどタイミングもよかったみたいで、ちーちゃん「ん?」とうなりながら、体を伸ばしていた。


「ん、よーちゃんと?」

「ん、静真が。」

「そりゃぁ。そっくりだよ」


さも当たり前じゃないという笑顔と一緒に言われると、悔しいというより、照れる。


「やっぱり、そんな似てるのか…。うーん。」

「もしかして、いや?」

「ううん、そんなことない。むしろっていうくらいでは、ある、けど。」


あぁほら。恥ずかしくて顔がすぐ赤くなる。

なら自分から切り出さなきゃいいのに。ちーちゃん相手だと、つい。

っは。そっか。神様の子供だから、悩みをついつい話してしまうのか。なんて思ったりもする。向こうじゃ聖人やら天使やら神の子やらだから、きっと東洋でも同じように・・・。

って、私がそう思うのも、なんか変だなぁ。

そんな変なことを考えたら、顔の高潮もさっと下がってきた。

そしてさらに、きっと変な動きをしているであろう私に、ちーちゃんは「よ、よーちゃん?」と心配そうに声をかける。そうだそうだ、話の途中だった。


「いやただ、そんなべったりなのかなーって。そう、見える?」

「見え、るなぁ。もーなんかこっちが恥ずかしくなるくらい。あれだよ、お母さんとお父さんと同じくらいだよ?」

「そ、それは、うん、気をつけよう・・・」


ちーちゃんも「そうだよー」と、若干自虐的に苦笑いする。

そりゃ自分の親があれだと、娘としては恥ずかしいよなぁ。けどその二人の間には、いつもちーちゃんがいるんだよ、とはあえて言わなかった。ちーちゃんならきっとわかってるから、苦笑いしているんだろう。


「じゃぁ、たとえば…」


私はそういって、ちょっとした陣を指で宙に描いて、手のひらをかざす。

蒼い色で描かれた陣は、私に反応して一瞬輝くと、私を「遥無」から「結無」に成長させた。変身シーンなんてないからね。と、こういう時は言えと、朝埜姉さまには言われたけど、ちーちゃんに言ってもなぁと思い、とどまった。

けれど、そう。これならば。この姿ならば。


「私でも、そう見える?」


腰に手を当てて、そうだ!これならば!という勢いで胸を張ってみる。そこそこ成長した胸を、張ってみる。

服も体に合わせて変わっているのは、ご都合主義、ではない。この姿で記憶させているからだ。まぁベースは「遥無」の時の服だから、少しだけ肩を出してみたりと、アレンジを加えている。

ふふふ。「結無」ならだいたい静真と同じ年齢だから、きっとそうは見えまい!「見えるよ」えええええ。


「うそー。ど、どんなとこで!?いつ!?どんなふうに!?」

「うーんとね、ゆーちゃんだと、静真さんといる時の照れ隠しが、判り易すぎるのかな。そういうところは、なんとなく似てるかな。静真さんには失礼かもだけど」


そ、そそそそそんなこと無いし。

…と反論したかったけど、とても身に覚えがあるから、口からはぐうの音も出なかった。も、もしかして、この感じが朝埜姉さまが言ってた「ツンデレ」なるものなのかも。こう、静真に対して「べ、別にあんたのことなんて、好きでもなんでもないんだからね!!わ、わ、私が一緒にいてあげてるだけなんだから!!」とか、なんか言えそう。ほほう、なるほど。あぁそう言われると、静真もそんな時があるなぁ。

けれど、これでもかとなると、後は。

私はちーちゃんに対して「じゃ、じゃあさ!」と苦し紛れに言いながら、また陣を描く。

こうなると最後、そりゃあもう「ヤウナ」しか残っていないのだ。


「これなら、どうだろうか?」


胸の辺りに静かに手を当てて、ちぃの方を向く。

だが、実のところ、あまり「ヤウナ」の姿で居ることが少ないものだから、この時に主様とどうこうするなんて……もしかしたら今まで無いかもしれぬ。これはこれで新鮮なのか。


「正直どう?って聞いてみておいてなんだが、私になることなどはまずなかったものだから、こう、何て言うべきか、そういうことは無いのだよ。」

「そういえば、やーちゃんなのは基本的に無いんだよね。私もそんなに、やーちゃんのときとは話してないね」

「うむ。私としても、この姿のときは臨戦態勢として構えることが多かったのだからな。あとは夜にしず……っは」


辛うじて口を止めることが出来た。

そして、


しまった。


と確実に気づくまで、少しの間が有った。

妄言失言。勿論のこと、ちぃもポカンとした顔で、私のことを見ていた。きっと私の顔は、「やってしまった」という顔のまま、歪な顔のまま、固まっていたんだろう。


これは、ふむ、その、ちが、いや、あの、でも、だから、その。


などと呟きながら、辛うじて急ぎ陣を組み描くと、すぐさま私は「遥無」に戻った。視線の高さも、だいたい半分になって、ちーちゃんの顔が正面にある。

そのときの私の顔は、また兎みたいに真っ赤っか。もう、なんだろうか、こうも毎回もう。

「な、なんでもないからね!?今のはヤウナだから、そ、そう、私じゃなくてね!?」

「よーちゃん」

がしっと、私の両手を握りしめてきた。かなり、とても、力のこもった表情と一緒に。そして、目が本気だ。

「わたし、応援するから!がんばってね!」

「え、ちょ、だから、違うんはだってばあああああ!!」

顔を真っ赤にして、お腹の底から、叫び声が出てきた。少し涙目なのは、もう、まぁ、いいや。

神の子からの祝福。なんともなぁ、ちーちゃんそれなんか、違うから...。





そんなこんなで、結局見つからず仕舞い。もう夕方になってきているようで、空の夕焼けが徐々に色濃くなっている。きっとそのうち夜になってしまうとは思う。

そもそも、あんな大声出したし、逃げても仕方がないと言われると、言い返せないと思う。もちろん、静真を除いて。

「あ、そうだった。」

「え、どうしたの?」

思い出したようにちーちゃんが手をポンと叩いた。

いかにも、「あ、忘れてたそうだった。」なんていうように。

「よーちゃん、忘れてた!」

あぁほら、やっぱり。

さすがというか、なんというか、天然というか。

こういうところは、白い人に似ているなぁ。

「魔法だよ!魔法使うと出てくるかも!」

バッと私にかけよって、ほら!ほら!っていう顔をしながら、私の腕をを激しく降りはじめる。

そういえば、確かに黒い人が、そんなことをいっていたような。加えて、「多分ね」という一言も、強調して。

物珍しいとか、そういうこと?

まぁそれもそうなのかも、と思わなくもない。こんな極東の孤島だし、土地柄も宗教も違うみたいだから。

そのせいかどうか、目の前のちーちゃんの目が輝いる。とても、とっても。

「いやまぁ、いいんだけど、なんだかんだで使ってるじゃんか。さっきの変身とかさ。」

「違う違う、もっとこう、魔法っぽいのとか!」

「ま、魔法っぽい、かぁ。うーむ。」

そういわれると、なんだか困る。腕くみしながら考えてはみるけど、突然そんなことを問われると、ぱっと出てこない。

それこそ、さっきの変身は本当に、魔法になると思うんだけどね。時間とか交えたり替えたり廻したり、とかしてるもの。

それに朝埜姉さまなんて、変身見せる度に、「魔法少女だ!」とか「生変身バンクだ!」とか、仕舞いには「魔法少女っぽい服作ったから、ほら、ほらほらほらほら。ウフフフフフ。」て云いながら、フリフリの透け透けの布が小さい服とか、なんか杖みたいなものとか持ちながら迫ってくる。しかも無理矢理着せられて、かわいいポーズというか恥ずかしいポーズをさせられた。さらにそれを静真に見られて、恥ずかしくて死ぬかと思った。死ぬかと思った!ううううう。

「ヤウナ」のときなら、別に恥ずかしくともなんともないんだけど、朝埜姉さまが「私」がいいむしろ「私」でないとって。

いや嫌いじゃないんだよ?見られるのがやなだけで。特に静真に。恥ずかしい。


「よ、よーちゃん?また顔赤くなってるよ?」

「んぁ、あ、いやなんでもないよ。変身シーンとかバンクとかさ」

「ぱ、ばんく?」


と、ともかく。

そうだなぁ。魔法かぁ。

見ごたえあってっていうのなら、蒼い炎、くらい?

これを起点にして、陣作ってるから、まず必ず使うけど。


本当は、静真が使ってる「けーたい」とか「すまほ」とかいうヤツのほうが、私としては「魔法」に思える。あれすげえ。ほんとすげえ。だって写真も簡単にとれて、あの薄い板の中で、なんかもう、なんか、すげえ。

だからこそ、こう、普段日常的に使っている魔法以外となると、実は逆に手間がかかってしまっている。もう私の知る魔法は、別にいらない?なんて。


本当に、そう思う。


「あ、なら。」


思い付いた。


陣を描くだけ、いいのでは?

いっぱい。ちょーいっぱい。

それなら、今の時代のものよりも、自信がある。

そう。それだけだけど、それだけ、その分、綺麗なんじゃなかろうか?


よし。


そう決めると、私は無数に近い数の「絵」を描いた。

蒼い炎の魔方陣が、ほの暗くなり始めた空をたくさんおおって、ゆっくり廻したり、動かしたりしてみる。

まるでカーニバルか何かだ。きっとサバトでも、こんなに彩ることはないだろうなと思いつつ、次々と陣を空に飛ばしていく。

もちろんこれらの陣には意味もなくて、出したからって何かあるわけでもなくて、ただただ綺麗な模様なだけ。それこそ、「絵」。


なんだか、楽しくなってきた。

とうとう私自身もくるくると踊りながら、次々と指を走らせていく。踊りながら指揮を執るように、踊り続ける。

なんだか、静真と会った時の夜を思い出す。あの時とは事情も目的も違うけれども、同じように楽しい。体も指も止まらない。ちょっとぐらい、調子に乗ってみようじゃないかと。


ふふふ。ほれみろ。ちーちゃんが大はしゃぎして大満足しているんだから、私の魔法は、まだまだ捨てたもんじゃない。

にしてもほんと、ちーちゃんの笑顔を見ると、達成感とは別で余計に、こっちまで嬉しくなるし、なんか恥ずかしくなるじゃない。


まったく。ふふ。












マエ ツギ