//おかしな少年と神様の少女//

//母狐の書き方//



8.

さて、後日談。

いや後日談で俺が出てきても、話になるのかという感じはするんだがな。

というか、後日談というか、そのちょっと後だ。

本当の後日談は、誰かに任せることにする。


アネキから面倒な頼み事が来たときは、もう既にガキがその場にいたんだろうなとは思う。てか、知っていた。

世の中便利になったもんで、なんかあったときはGPSで場所が分かるようにと、スマホを持たせていた。お子様向けの非常事態用のアプリだけども。んで、出てきた場所が場所だったもんだから、すぐ俺も向かった。ここ最近はクゥさんからの依頼もありの、ずっとこんなんばっかで、いい加減後処理っていうのも慣れてきたと自分でも思っている。そのために車の免許まで取りもした。

まぁ俺のことは今はいい。

クゥさんからは、『ここに誰かがいて、その時何かが起きたんなら、何かあったってことだからな』と言われていた。そんな場所の近くにあのガキがいる。加えてアネキからの面倒ごとの電話。考えずとも、もう十分だろう。

大きなため息をつきながら、暗くなるまでには着かねぇとなとワンボックスカーを走らせていると、案の定ガキからの電話が鳴った。聞き覚えのない着信音は、勝手にガキが設定したんだろう。

「今向かってるから待ってろ」

「なんじゃ、もう向かってるとは、さすが主、じゃな」

肩で息が上がっているのが、電話越しに十分に分かった。

「待ってろ。」

「…うん、待ってる。」

そう言って電話を切る。俺も俺かと何度目かの諦めをため息をついた。



「で、なんだこりゃ。」


「やぁ。久しぶり。元気?」


いやいや、なんでこんな大物がいるんだよ。真っ暗の神様。

ひょうひょうとしてるが、服の切れ端がボロボロで、ところどころ刃物で切れたような裂傷。いや、服だけだ。その下にある皮膚は無傷だった。


「予想通りすごい顔だね。2年ぶりかな。クゥさんからはいろいろと聞いてるよ。」


「いや、そんなことより、どうしてあんたがいるんだよ。しかもそんなボロボロで。」


「まぁね。不測の事態かな?」


神様でも不測の事態とかあんのか。

ただ、その神様が肩に担いでいるのは、たぶん人だろうけど、頭の上に獣耳と、尻尾も生えている女の人だった。この神様のほうが体格が小さいから、どうも違和感は感じるが、この人らに深く突っ込んじゃいけないと、俺自身も十分に体験している。

そして神様の隣に、もうあからさまなほどにわかりやすい、獣っぽい子供が二人居た。髪の長い方が、担がれた女の人の、獣のようなでかい手をつかんで、もう一匹の髪がショートのほうは、神様の手をつかんでいた。


「ん、あぁ、大丈夫。もう終わったし、この女の子も死んでないから」


「だろ、うな。で、ガキは?」


「あぁ、魔女っ娘なら、僕の娘と一緒だよ。今回はおかげさまで助かったよ。死ぬところだった。すまない。」


「…まぁ、無事ならいい。」


「お互い大変だね。」


「あぁ、全くだ。」


本当に、全くだと思う。

顔を見れば、巻き込んで済まないというのが十分伝わったから、俺はとやかく言うつもりはない。それに、神様相手に喧嘩を売る気もない。

その神様の言う通り、奥の方から神様の子供と、その子供に背負われたガキがやってきた。


「ちーちゃんはほんと力持ちじゃな。」


「そんなことないよ。よーちゃんが軽いからだよ。」


いや、そのガキは重くはないが、そんな軽々とってほどでもない。

いくら同じくらいの体格だからといっても、重がりも何もせずってのも、とは思うが、いや、ほんと、まぁ、別にいいか。

そのガキが俺を見つけると、分かりやすく顔を赤くして、慌てて降りて自分で歩き始めた。


「し、しずま、よくきてくれた」


「いや、もう無理しなくていいから、さっさと乗れ。」


「あとで、しずまもおんぶして」「乗れ」


さっきまで肩で息して、弱弱しい声出してたやつが云う台詞か。

こいつも相変わらずだ。

まぁ、殊勝にスマホを持っていたのは、後で、ちゃんと言ってやるか。


「で、あんたはどうする。その肩に担いだのは載せるだろうが。」


神様に向けてそういうと、神様は「僕はいいよ」といった。


「ここを開けるわけにもいかないし、正直疲れたから、遠慮するよ。」


「そうか。ただ、あんた見るからにボロボロだが」


「いや、これでも神様だからね、一応。大丈夫なんだ。それよりも、ちぃ」


神様は自分の娘を呼ぶと、すたすたと娘さんが近寄ってきた。


「ちぃは、魔女っ娘と一緒に行っても大丈夫。今日はお母さんいつ帰ってくるかわからないし、思い切ってお邪魔しちゃって来てもいいよ。いいかな?」


その娘さんの頭をなでながら、さらっと我が家にお邪魔すると宣言する神様。そして俺を見る。

それが聞こえたのか、車の中のガキが、目をキラキラさせながら、俺を見る。

そして娘さんも、おどおどしながらも目をキラキラさせながら、俺を見る。


「…まぁ、かなわないが。」


「あ、ありがとうございます、しずまさん、お、お邪魔します」


その娘さんに深々と頭を頭を下げられる。

いやここまで言われたら、俺に拒否権はないんじゃないか。しかも神様の娘に頭を下げられるってのは、いや、っては言えないだろう。

それにガキと仲いいのは知ってるし、何も言い返せない。

あぁ、これにアネキが帰ってきたら、どうなるんだか。


「てか、その人を乗せるのはいいが、どこに連れていけばいいんだ」

「あぁ、それは気にせず、君の家に運ぶといい。もう君のお姉さんには言ってあるから。」


意識外から声がして、思わず体がびくっとなった。


「…相変わらず、神出鬼没だな。」


「なぁに、私はずっとそこの黒いのの『家』にいたからね。君が来たのも分かったから、便乗させてもらおうと思ってね。」


そういいながら、俺の方に肘をかけるのはクゥさんだ。

自分でいつでもどこでも帰れるだろう、とは、言い返せなかった。

肩身が狭いってのは、こういうことなんだろうな。


「てかあんた」


「クゥさん。」


「…クゥさん、アネキと知り合いだったのか」


そう聞くと、クゥさんはまぁねと一言。

この人も、本当につかみどころがない。

この通り神出鬼没で、何処にでも出てくる。

きっと、というかこの人も、普通の人ではないんだろうけど、俺の稼ぎ元、仕事の依頼主なんだから、文句も何も言えないし、もともと言うつもりも何もない。

ただ、この人らの影響で、いつしか、普通の生活ってのが分からなくなってきているのは、言うまでもないが。


「大丈夫、その人に関しては、僕もよくわからないから」


「おいおい失礼な。私くらい普通なニンゲンはいないが?」


「ははは、またまた。」


俺にしちゃあんたらどっちもだっての。

ため息が意図せず出るのは、もう仕方がないと、これも何度も諦めている。



勿論、帰りの車内が騒がしかったのは、言うまでもない。

そんな中でも、あの神様が担いできた女の子は、いつの間にか寝息を立てて寝ていた。少なくとも1時間は運転していたが、ガキと娘さんと、加えてクゥさんと、さらにもう二匹の子供とで、まるで遠足の帰りかと思わせるほど、騒がしかった。早く帰って寝たい。

そして案の定、着いた頃には全員爆睡ときた。はぁ。


で、やっとのことで帰ってくるも、「「おねがいします」」と双子から女の人を運んでくれとのステレオコール。しょうもなく担いだが、言っちゃ悪いが、重い。

やっぱあの神様、ズルしてやがったなと思いながらも、やっと4Fの部屋に到着した。


「おかえり静真。なに、遅かったじゃない」


すでにアネキは帰宅していた。そりゃそうだ。こちとら2時間も運転していたんだ。遅くもなる。そんな文句を聞き流して、アネキの部屋に入り、ベットの上に慎重に下す。


「アネキ、あとよろしく。疲れた、寝る」


そういって俺は、飯も食わずと眠りについた。

正直、そこから先は分からないけれども、一晩、アネキが女の人の看病をしていたそうで、テーブルの上には消毒剤やら包帯やらが、乱雑に散らばっていた。朝になるとアネキが疲れた顔で、今のソファーに沈んでいた。

ガキと娘さんは一緒に寝ていたようで、よっぽど疲れたんだろう、一緒の布団で寝ていた。どおりで今日は、広々と自分のベットが使えていたわけだと、頭を掻きあがら納得する。


「あ、静真、おはよう。あとおやすみ」


「あいよ。」


俺は一言返して、シャワーを浴びに浴室に向かった。

今日くらいは寝かせてやるか。たしか休みだとも言っていた。


「あ、季縁ちゃんなら、シャワー浴びるって、さっき…まぁ、いいや、めんど」




その忠告を、もっと早く言えと。


脱衣所のドアを開けると、悲鳴とともに俺の顔面にタオルが飛んできた。

その悲鳴を聞いて、アネキは笑い始めて、ガキが飛び起きる。

ガキがその現場を目撃すると、ガミガミギャーギャー言い始めて、結果としてなぜか「ええいわしのほうが!」と言って服を脱いで『結無』に成長する(成長というよりは変身)。さらなる悲鳴が鳴り響き、「あ、なら私も」と言ってクゥさんが乱入したあたりで、俺は面倒くさくなって、二度寝のために部屋に戻る。てかどこから出てきたこの人。

浴室の方で三人の女の人の笑い声が聞こえて、結果アネキ以外の女性陣、子供ら含めて全員が浴室に入る事態に。

自分で言うのもなんだけど、そこまで狭くはないから、むしろでかい部類の浴室だから、たぶん全員が入るだろうけど、もう、面倒くさい。

本当、面倒くさい。寝る。

そう決めて、「朝飯!」というお呼びがかかるまで、俺は寝ることにした。寝る努力をした。












マエ ツギ