//おかしな少年と神様の少女//

//母狐の書き方//



9.

ウサギに狐を預けても大丈夫だろうか、なんてのは冗談。たださっきまでなら、危なかったことには、かわりがなかった。もう少しで、いくら僕でも『殺さざる終えない』事になっていた。

もう大丈夫だろう。いや、大丈夫だ。はっきりと言える。無理矢理繋げた割には、思いの外うまくいってくたお陰で、『真っ暗』が確りと溶け込んでいってくれたから。


半端に吸われたなら、ならいっそもっと吸わせて、安定させよう。


と、無茶をしたかいはあった。

お陰さまで、さっきあの女の子を運ぶまでが、限界だ。今はあの場で全員を見送ってから、しばらく時間がたってるんたけど、地べたに座り込んで動けずにいる。

ちと、疲れたね。

仰げばもう空は真っ暗だ。ただ、僕の『真っ暗』とは違って星が一面に、所狭しとびっしり、夜空に光っていた。その向こうに、殊更大きく丸い月。

あぁ、今日は、満月か。

そりゃ獣は騒ぐに決まってるじゃないか。


「と思って、私もクロに襲われちゃうのかなー、なんて期待してたんだけど、今日はダメそうだね。」


見たことのあるアングルで、シロが僕を覗き込む。

あいかわらず、人のの思考を読むんだから。


「やぁ、シロ。おかえり。」


「やぁ、クロ。ただいま。ずいぶんしてやられたね。」


まぁね、と言って、僕は背中から地面に倒れ込む。夜空を正面に、大の字で。

するとシロが僕の上、胸の辺りに、僕を覆い被さるようにして寄り添ってくれる。

僕の神様。巫女服が似合う白い神様。


「真っ暗、随分と出したでしょ。しかも女の子に。」


「うん。ちょっと、減ったかも。けど、ほっとけなくてね。」


そもそも僕の場合だけど、今回はあの子らの母親、母狐が亡くなったことから始まる。

寿命だろう。僕やシロほどではないにせよ、あの母狐も人にはなれただろうし、僕の知らないところで、シロのために色々してくれていたのは、多少なりと察してはいた。

けどまだあの双子は幼い。母親が死んだことは知ってはいるけど、そりゃ受け入れられない。だからこそ、誰かを襲う前に、自分達で餌を集めるやり方を間違えないようにと、思ったんだけどなぁ。

けどまさか、あの女の子に母狐がとりついているなんぞ、殊更に、『真っ暗』を取り込む事が出来るだけの容量があるなんぞ。

前者はあの母狐の善意と見るか、はたまた襲われるように誘導してのはかりごとか。真っ暗を吸える器なら、何にでも目をつけられるだろう。言葉は悪いけど、あの体の使い道は山ほどある。

あ、逆にだからかも。先にあの体に入り込んで、他を寄せないようにしたとか。ついでに双子の世話役として、母親として選んだ、とか。まぁそれでも真っ暗を吸われてるんだから、結局な−と、思わなくもない。

結果として、半端に取り込んだ真っ暗のせいで、余計に獣らしく騒ぎ立ててしまったのだし。


「もしかして、あの母狐さんのこと?」


「んー、それも、かな。考えてた。」


「そっかそっか。あの人、こんな私にも尽くしてくれてたんだよね。結構昔から。」


「そんなシロだから、じゃない?

 きっとそうだよ。」


「ははは、それなら、いいなぁ。ちゃんと弔ってもやれたし、あの人の意思で、この山の土に戻してもあげれた。」


そう。あの母狐の墓は、懇切丁寧に、とできてればいいけれども、湖の反対岸のほうに作らせてもらった。

この山に戻れたら、けどきっと、願わくば、まだあの子達を見守れたら、とも願ったんだろうか。


「僕は、せめてちぃが大人になってるれるまでは、シロと一緒がいいなぁ。」


「はは、クロらしいや。大丈夫だよー、私はずっと一緒だから。」


「うん、僕も。けど、これでちょうど、シロと同じくらい?」


ぽろっとぶっちゃけてみると、あんまり見ないシロの驚いた顔だ。


「ん、あれま、判ってた?」


「なんとなく、けど、あえて、勿論って云っとくよ。」


「なーんだ。流石クロだ。けどそのわりには、今の姿を見られるの、ちぃには恥ずかしかったから、お泊まりいかせたんでしょ?」


「まぁ、そりゃぁ、おっしゃる通り。これでも今は父親だから、変なとこで意地張ってもいいかな−って思ってね。」


お互い、隠し事が全然できないタチだ。何でも見破られるし、何でもわかってしまう。

辛うじて上がる右手で、シロの頭を撫でる。僕の上で、まるで猫のような仕草をすると、とてもこそばゆい。元気ならこのまま押し倒すのに。本気で。


「ねぇシロ。」


「なぁにクロ。」


「お腹すいた。」


「ん。私食べる?」


「今日は遠慮しとく。」


「じゃ、明日ね。」


「なら、明日には元気にならないとなぁ。」


「なら、早速戻ってご飯にしますか。なに食べたい?」


「シロ。けど今日は我慢して、白いご飯に白い豆腐に白味噌の味噌汁にシラスと白菜漬けが食べたいな。」


「はは、私ばっかりじゃん」


「そりゃもちろん。シロもシロの作るご飯も大好きだからね。」


と、いつも通りの会話。

そして気がつけば、いつの間にか神社の境内についていた。お得意のワープ、本当にシロ様々だ。

ちなみに僕はまだ、お札がなければ飛ぶことはできない。うーん、まだまだ修行が足りんぞ、僕。

シロは「ちょっと待っててね」というと、僕から離れて台所に向かった。ああ、いい匂いが離れてく。シロ臭はぁはぁ。

「あとでちゃんと嗅がせるから」と、台所の方から声がした。やったぜ。やったぜえ。


あ、そういえば。


「ねぇシロー」


「なぁにクロ−」


「そういえばー、きょうーアインさんのとこいってたんだっけー?」


「そうそうー。あ、そうだった。ついクロ臭嗅いでて忘れてた。あのねー、アインさんとこにねー、浄点ちゃんきたのー。」


「へー。浄点・・・」


・・・えー。


開いた口が閉まらないとは、まさにこれ。

いやいや、それ、ヤバイんじゃないか。えー。

今回の僕の騒動の何倍も。


「ね、ねぇ、ちょっと詳しく・・・」


つい体を起こそうとして、いたるところから筋肉痛ににた激痛が走る。

あー、こりゃシロを襲えない、じゃなくて、そうじゃない。ソレどころじゃない。


「まぁまぁ落ち着いて、クロ。ソレが大丈夫なんだよ。」


シロがもつお盆には、僕の希望通りのメニューを取り揃えてあった。お盆を僕の前においてくれた。今度は無理せず、ゆっくり体を起こす。


「け、けと、ど、どういう・・・」


動揺している僕の隣に座って、まるで何でもなかった、全然余裕だったという感じで、いつも通りの口調でシロは話し始めた。

僕はご飯どころではなくなった気分で、固唾をのんでシロの言葉を聞き始める。


「まーまーお客様、ご飯でも食べながらお聞きくださいな。それがねー」









マエ ツギ