鬼娘は熊に縁る



やっと。

ここまできた。

つかれた。こんなに人いるとか。

はは様、ほんとにこんな街に居るの...?


いや、いる。確実に。

此ばかりは、はは様の「でかさ」を隠せてない。

此を辿れば...。


高速バスなるもので数時間。

山から降りるなんて、ほぼほぼ初めて。

ましてやこんな都会。


とにかく早く見つけて、角だして、横になりたい...。







トト様は大往生だった。

戸籍上は93才だったけど、正直何歳なのかほんとにわからない。

カカ様も、病気だったけど、大往生だろう。純な人から山伏に為って、正直カカ様も何歳かわからない。

大体私だって、そろそろ実年齢、117歳だし。


姉妹兄弟なんて、実のところいっぱい居る。たぶんだけど、今じゃ村のほぼ全員が血縁者だろう。けど、山伏として、鬼として色濃く受け継いだのは、どうやら私一人だった。

特にこの角。

便宜上「山伏化」と表現するけど、この時以外は普通の人間と大差変わらない姿で居る。「山伏化」すると、色濃い鬼の血が出て、角を始め、トト様のほんきもーどに近い姿になれる。使いどころは、昔と比べて今はあんまり無い。


ああ、訂正。

姉妹兄弟は、皆私より先に、カカ様とトト様の処に行ってしまって、今じゃ子と孫の世代。




と、くよくよしてた頃もある。

けど今は、灰鯉たち妹弟も増えたし、そこな楽しく暮らせている。

まぁとはいえ、暫くは実家で暮らしていたけれど、さすがに皆から毎度ごはんや野菜やらを受けとるのは、少し、いや、とても気が引けてくる。なにせ私は、何もしてないのだから。


「だから、家出してきた。旅行とも言う。」


「ま、まぁ、無事辿り着いてよかったけど...。」


「ちなみに明後日帰るから」


「やっぱり旅行だ!」




かれこれ1年ぶりに会うのだけども、はは様は相変わらず、はは様だった。

ふんわりとやんわりと、心身ともに柔らかいのに、自覚してない「でかさ」。ちょっとは、自覚してほしい。

そも、熊から人へ。トト様曰く、それは正直「白神様」によるものではない、ということも。


…まぁけど、そんな相変わらずのはは様見て安心したからなのか、私の額からは意図せず角が出ていた。気が抜けて落ち着いた、からだろうなぁ。


そりゃ、バス降りてから道に迷って、重い荷物もって歩き回って、いっそのこと山伏って鬼モードになればこんな荷物ー、なんて思ったけどさ。そりゃ反則だし、ね。



「外で不用意に出さないでよー?っていっても、私も人の事は言えないんだけどさ。」


料理をしながらはは様が言う。気がつくと、はは様の頭から、獣耳が出ていた。


「まさか、そのまま外出ちゃったとか?」


「いやぁそれがね。少し前に宅配便が来たときに、寝起きだったから、この耳出たままだったんだよねー。てへー。」


てへー。じゃない。

小刻みな心地よい包丁の音を出しながら、さらっと恐ろしいことを言うんだから、このはは様はー…。


本当に、変わらない。

私と初めて会った時も。

「大丈夫だから。私が『はは様』だよ」と、カカ様もトト様も居なくなってしまって、私が落ち込んでいた時に言ってくれた時も。


「はは様、変わらないね。安心した。」


「そう?

 私は雪輪が相変わらずかわいくて、安心した。」



もうそういうところだぞー。

そういう笑顔で言うところだぞー。

もう。





…ん?


「あれ、はは様、パソコン使えるんだ。ちょっと使っても、あ、ちょうどyoutube開いてる」


「ふぁっ!」


トーン、と野菜を切り損ねた包丁の音がする。

しっかりとデュアルディスプレイにして、好きな絵を描く道具もそろえてるあたり、はは様らしい。

お、はは様もスマホもってるじゃん。何気に最近変えたばっかりだなー。


「私、最近スマホとかパソコンとかの遣い方覚えたんだよねー……あ、はは様、VTuberやってる」


「ファッ!!!」


どんがらがっしゃん。

いい音がした。


映し出されていた画面の向こうでは、いろんな姿のキャラクターや人が、動いていたり、ゲームしたり、みんなで話していたりと、なんかとても楽しそうだ。


…って、まって。この人たち、全部じゃないけど、ホンモノの「異」じゃん。

すごい、こんな溶け込んでるなんて…。


あぁそうかだから母様も…ん……ということは、私も鬼モードで出ても、いいってことだよね。なにそれ、みんなでゲームとか


楽しそうなんだけど。超楽しそうなんですけど!!


「そ、そそ、そそそそそそれはね」


「なにそれずるい!」


「へ?」






「楽しそう!わたしもやる!ずるい!!!!」













マエ ツギ