「したんですね」
たまたまこの日は、御山とはまた違う「山」に居た。
なんせしばらく顔も出してなかったし、大雪の時期にわざわざ来るところでもない。
「あれは娘さん?」
と指さす方には、うちの長女こと雪輪がお参りしていた。
「そうよ。おっきくなったでしょ」
「いやいや、40年くらいだとあなたたちそう変わらないでしょうに」
「そうね」
確かに、40年ぶり?かなぁ。
多分以前来たときは、まだ先代が頑張ってらっしゃったものね。
「にしても、ずいぶんと大きくなりましたね、ここも。」
「ええ、幸いにもご参拝してくださる方は尽きませんし。最近じゃコンサートとかライブとかもやってるんですよ」
「あいかわらず手広いことで」
正直なところ、この「山」はあまり縁がない。
いわゆる管轄外だし、文化そのものがまるで違う、と言えるくらいには別の世界。
だったのだけどもね。
いまじゃ車さえあれば来れるし、昔とは時代も全然違う。
「同じことを先代もおっしゃっておりました。昔は教え一つで戦になったものが、今では時代だ、と。」
「そうねぇ。私達はそうそう変わるものではないのだけども、今の世はとても早いのよね。」
「とはいえ、私にはあまり実感ないことですけどもね。貴女の尺度が違うのですから。どうせ来週にはまた尺度が伸びるのでしょう?」
「気が付いたらだけどもね。ただ、今は尺度も五分の一でいいのよ。」
「まぁまぁ、うらやましい限りです。」
ここに来た理由も、然したるものではなかったりする。
なんとなく、近くに来たので。その程度だったりした。
大雪の時期に来る場所ではないと知っておきながらも、「なんとなく」の理由に勝るものはない。
「雪輪ー、帰るよ〜」
確りとお参りをする長女に声をかけると、合せていた手をこちらに向けて、「ほーい」と手を振り返した。
こういうところは、やっぱり山伏の長女だ。山も文化も違えど礼儀を通す。
「あら、もうお帰りで。また来てくださいな。今度はお茶菓子でも。」
「ぜひぜひ。」
階段を降りる私たちに、深々とお辞儀をしてくださった姿をみて、こちらも礼を返した。
帰りの運転中。訪れた場所が見えなくなったあたりで、長女が疑問を投げかけてきた。
「…ママ上、あの人。あそこから出れないよね?」
「そうよ。しかも雪輪の予想通り、今のあそこの山になってるの。古い知り合いの一人。」
「やっぱり。ウチでいうシロさん?」
「んー、まぁ、たしかに。言われてみるとそうね。シロさんは自由に外も出れるけど、あの人はあそこに居続けることを決めて、山そのものになった人。」
「きっと、そうせざる理由ってのも、あったのかなぁ。冬萌氏みたいにさ。」
「たぶんね。あったんだと思う。」
相当な覚悟もあった、とまでは知っている。
詳しくは私も聞かないけども、当人曰く「時代だから」と言っていた。
「それでもほら、ああやって『いまは全然不自由ないし』と開き直れるってことは、そうねぇ、もし山が違えば山伏たり得てもおかしくなかったんじゃないかしらね。」
気が付くと時代も時間も時世も移ろう。
時間が解決するとはよく言ったものだけども。
「ママ上、こんどまた来よう。」
「そうね。こんどはお土産でも持っていきましょ」
雪が解けるころに、また顔を出しましょうか。